第8回『このミス』大賞 1次通過作品 12

北極圏にできる氷の道を走るドライバーが、爆発事故に遭遇する。
事故に巻き込まれた少年と医師、そしてドライバーに迫るタイムリミット。
極北の地で繰り広げられる、シンプル故の力強さのある冒険行。

『凍りのエピタフ』 谷門展法

 北極圏に出来る氷の道。狩深忠則は、その道で荷物を運ぶドライバーである。何か一つでもミスを犯せば命を落とすだけに、ドライバーの報酬は莫大。ヤバイ荷物を運べば、さらに追加報酬も得られる。その仕事のさなか、狩深は大きな爆発事故に遭遇した。その事故に巻き込まれた少年ジョシュを病院に運ぶ彼は、何故か自分が事故の容疑者にされていることを知る……。
 まずは舞台が魅力的である。凍てついた氷の世界。そこを大型車が走り回るのである。冒険心が否が応でも疼こうというものだ。
 そこに傷ついたジョシュを献身的に保護する医師・理保美が登場する。ヒロインとしての彼女の活躍が素晴らしい。流石にこうした地を職場とするだけあって、芯が強靱なのだ。
 そうした舞台とヒロインの魅力に、狩深の仕事のタイムリミットという要素が加わってくる。これらが一体となって、冒頭から結末まで物語をドライブしていくのだ。著者はさらにいくつもの危機と謎を配置し、読者を最後まで惹きつけるべく工夫している。かくして、シンプルなれど十分に満足のいく冒険小説を愉しめるのである。
 あえて難を言うとすれば、脇役陣の造形か。主役とヒロインは問題ないのだが、彼等を取り巻く曲者たちの描写にもっと濃淡があれば、物語はより引き締まったであろう。
 その点はともかく、全体として、著者は昨年の一次予選通過作である『楽園への翼』より、きちんと進化した作品で勝負に挑んできた。舞台のリアリティにせよストーリーにせよ、明らかに一段上の作品に仕上がっている。著者のその努力を評価したいし、その結果である成長も喜びたい。そんな一作である。

(村上貴史)

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