第8回『このミス』大賞 1次通過作品 11

願いを叶えてくれるという、幽霊のイヌイくん。
彼が出現するというハンバーガーショッップを探し当てた和人の願いは、
幼なじみで植物状態の茉莉花の願いを知ることだった。

『嘘800のイヌイくん』 多谷一香

 物語の主人公は、高校二年の折座和人。彼は企業コンツェルン「オリザグループ」の実力者が愛人に生ませた子供だった。母子家庭だったが、母の死によって折座家に引き 取られることになったのだ。
 そんな彼は幼馴染の茉莉花から、不思議なハンバーガーショップの噂を聞いた。その店の二階席奥には「イヌイくん」という幽霊がいて、限定メニューを持っていくと願いを叶えてくれるというのだ。茉莉花も、願いを叶えてもらったという。
 数か月後、和人がその店を探し当てて二階へ上がると、イヌイくんの友だちだという二人——ふわふわな栗色の髪の美少女・美雨と、頬に傷のある青年・ロンと出会う。イヌイくんは留守だというので、和人は茉莉花が交通事故で植物状態にあることを二人に話し、茉莉花がイヌイくんに何を願ったのかを知りたいのだ、と言った。美雨とロンは、この次にはイヌイくんに会えるようにすると約束してくれた。
 だが、果たしてイヌイくんは本当に存在するのか。確かに不思議な出来事はあったが、あれはトリックではなかったのか。
 また、和人の側でも、真実を話していないところがあった。和人は、寮のルームメイトである修と、秘密の計画をもくろんでいたのだ。
 やがて、ひとつひとつ真相が明らかになっていくが、そのたびに新たな謎も浮かび上がる。果たして、全てが解決するときはくるのか……。
 文章は非常に読み易いし、次々に進展する事態は読者を飽きさせないし、登場人物のキャラクターたちもよく出来ている。あえて注文をつけるならば、タイトルになっているイヌイくんよりも他のキャラクターたちの方が比重が重くなっていることぐらいだろうか。
 面白くてさくさく読める、良質のエンターテインメントの登場だ。

(北原尚彦)

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