第8回『このミス』大賞 1次通過作品 10

憑き物筋の家を表す「オサキモチ」。
オサキモチの周吉は、その能力を駆使して事件を解決していく。
人のおそろしさを根底においた現代ホラー。

『鬼とオサキとムカデ女と』 高橋由太

 オサキってなんだ!(あとムカデ女も)オサキモチとは民俗学用語の一つで、憑き物筋の家を表す言葉である。均質という美風になじまない家があったとき、共同体の人々は「あいつはオサキモチの家だから」という言葉で現象を説明するわけですね。主人公の周吉は、そうしたオサキモチとして生まれたために辛酸を舐め、流浪して帝都にやってきたということになっている。人柄を見込まれてとある商家で働き始め、手代として出世した上に主人の娘に見初められて縁談を持ちかけられ、というところで事件が起きるのである。
 周吉にだけはオサキの姿が見えるので(高い油揚で釣ることができるらしい)、彼はその能力を駆使しながら事件を解決しようとする。異能の探偵が登場する活劇小説であり、周吉以外にも柳生流の使い手・蜘蛛之介など、魅力的なキャラクターが多数登場する。作者は2009年に角川ホラー小説大賞の最終選考に残ったそうだが、妖怪小説としても本篇はなかなかおもしろい出来である。物語の中心に人のおそろしさを挿話によって描くというテーマが置かれているので、奇を衒っただけの脅かし話になっていない。その点にも感心させられた。周吉の過去が描かれるくだりなど、醜悪なエピソードが淡々と綴られていて逆に凄みがある。民俗学上の知識も十分に咀嚼した形で披露されており、作者がうわべだけをなぞってこの題材を使っているわけではないことがよく分かります。
 もちろん美点だけではなくて、欠点もいろいろある。時代設定のぶれが随所に見られるし、重要な登場人物が途中からのっそり現れる構成も、人によっては荒削りととるだろう。台詞まわしなどに京極夏彦さんを思わせる部分があるのも、新人のデビュー作としては減点材料。どこかで見たような感じがしちゃうからね。しかし、そうした部分は重箱の隅をつつくような指摘である。作者の、おもしろいものを書いてやろう読ませてやろうという稚気を私は買った。ホラーなのにおかしな言い方だが、愛すべき小説だと思うのです。

(杉江松恋)

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