第8回『このミス』大賞 1次通過作品 08

人間並みの知能と身体能力を備えた中型犬、9(ナイン)。
それは、遺伝子操作によって生み出された実験動物だった——。
せつなく静かなラストが胸に迫る。

『9 —ナイン—』 シモムラ・タカヒロ

 迷彩服の男たちと猟犬が必死で追うのは、白い中型犬。だが、この犬はたちどころに追手を壊滅させるや、易々と逃亡してしまう。それはコードネーム「9(ナイン)」と呼ばれる、遺伝子操作によって生み出された、人間並みの知能と最高の身体能力を備えた実験動物だった——。
 出だしの緊迫した追跡劇にたちまち引き込まれるものの、ここでクーンツの傑作『ウォッチャーズ』を想起してしまうひとは、少なくあるまい。しかもその後の展開が、「9」が人間に拾われ、さらに凶暴な実験動物が追ってくるとあっては、「そう思うな」というのが無理な話であろう。ところが、である。これが単なる亜流と斬り捨てるには惜しい、高いリーダビリティを備えていて、なかなか侮れない。ジャーナリスト——山形と「9」の徐々に深まる絆、獰猛な宿敵「ドライツィーン」との一騎打ち、そしてせつなく静かなラストまで、意外性こそないものの、緩急を織り交ぜた盛り上げ方も堂に入っており、エンターテインメントとしての完成度は今回読んだ候補作のなかでも頭抜けている。ただし、よくまとまっているがゆえに、せっかくのB級テイストで発揮できたはずの突き抜けた面白味に欠ける点は否めない。さらに高いレベルで過剰さと静かさが両立していたなら、この独創性のなさを振り切るほどの満足が得られたのではないかと、うっすら思ったりもする。
 とにもかくにも、裏側に透けて見える『ウォッチャーズ』の影を前にして、最後まで本作を通すか「次回作に期待」に回すか迷いに迷ったが、ここまで執着させてしまうのも作品の魅力だと判断し、えいやっと推薦してしまうことにした。

(宇田川拓也)

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