第8回『このミス』大賞 1次通過作品 07

発生した2つの事件と、5年前に起きた生徒の自殺。
事件は巧みに絡み合い、混乱のなかで交渉が進められていく——。
自殺した小学生が遺した絵に描かれていた蛙男って、一体なんだ?

『蛙男』 小林涼介

 小学校教師の紅木弥生。彼女が担任していた生徒が自殺してから五年が過ぎた。そして、新たな事件が再び彼女を襲う。今度は誘拐事件であった。
 その事件には、誘拐された小学生の家庭教師を担当していた二人の塾講師も巻き込まれる。さらに、もう一つの誘拐事件がこの事件の背後で発生したことも明らかになるなど、混乱のなかで誘拐犯との交渉が進められていくことになる……。
 誘拐小説らしく、身代金の授受に工夫がされていることはいうまでもない。だが、この作品においては、現在進行中の誘拐事件と過去の事件との因縁もまた読みどころになっているのである。その両者が絡み合っている点に深みがあり、また、解明の難しさともなっているのだ。
 こうした入り組んだ構図の物語をスピーディーに展開させる上で、“巻き込まれた二人の塾講師”の造形が有効に機能している。それぞれに個性を持った二人が、入れかわり立ちかわり読者を導いてくれるのだ。また、誘拐された家族の傲岸さも特筆に値する。ここまで傲岸不遜な家族というのもなかなかに珍しい。そして、こうした家庭教師や家族の造形が、誘拐小説を巧みに転がしていくのである。この小説造りはかなり達者といえよう。
 また、誘拐ものにしては珍しいことに、この事件にある大きな仕掛けが施されている点も評価したい。それによって、ミステリとしての味わいが一段と濃くなっているのである。
 小学生誘拐事件を、小学生たちが抱える闇と融合させて描いた『蛙男』。台詞回しなどに若干古くさい面もなくはないが、それでも全体としては十分に新鮮である。

(村上貴史)

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