第8回『このミス』大賞 1次通過作品 04

行方不明になった友人・正臣の部屋に残された20台以上の
携帯電話を頼りに行方を追う中で、彼の意外な一面が露になり始め……。
次々と起こるディープな展開に吸い込まれる、衝撃の復讐劇。

『正体』 上田文箱

 池袋の宅配ピザ屋に勤めるフリーターの新本慶一。彼は顔に醜い傷跡が残っていることもあり、友人はほとんどいなかった。そんな彼の唯一の友人・佐々木正臣が音信不通になる。正臣の部屋へ様子を見に行くと、いきなり姿を消したような形跡が。しかもなぜか二十台以上の携帯電話が残されており、その目的は不明だった。
 不審に思った慶一は、正臣を探す決心をした。手がかりは、正臣の携帯に残されていた三人の名前。うち二人のところを訪ねてみるが、彼らは失踪していた。しかもいなくなる直前に彼らのもとを正臣がやってきて、何やらもめた挙句に「共犯」「共犯格」といった言葉を発していたという。
 正臣の弟・祐樹に連絡が取れて、慶一は祐樹(およびその彼女・原田有美)に会いに行く。すると、正臣の意外な一面——「暴力的」「執念深い」といったことを聞かされる。
 さらに、手がかりのもう一人・下井戸を訪ねると、彼もまた正臣の行動が異常だったことを語った。彼は明らかに普通ではなかった、と。
 調べるうちに、失踪者の一人と更にもう一人の女性に対して、正臣が復讐心を抱いていた事実が判明する。
 正臣は何かの事件に巻き込まれたのか。それとも、彼自身が事件を起こしたのか。やがて明らかになる復讐劇とは……。
 単に友人と連絡が取れなかった、という一件が、どんどんディープになっていく。サスペンスの中、ストーリーは次々に予想外の方向へと向かい、読者を飽きさせない。
 正臣は本当はどんな人間だったのか、彼の過去に何があったのか、復讐は果たしてどうなるのか——それらの謎が、最後には全て解き明かされる。
 最後のひと波乱だけは、やや改善の余地ありかも。これをもっと旨くまとめられれば、作品全体の評価がぐんとあがるのだが。
 梗概に、ちょっと分かりにくいところがあった。梗概をきちんと書くのも腕の見せ所なのである、ご注意を。

(北原尚彦)

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