第8回『このミス』大賞 1次通過作品 05

見知らぬ携帯電話のせいで殺人容疑をかけられた男。
友人はその持ち主を捜し、刑事は現場となったバーの秘密を追う。
軽快な語りで読ませるスマートなサスペンス。

『終宴』 鹿島我

 二日酔いで目覚めた広告代理店経営者・浦岡秀治は、鞄に見知らぬ携帯電話が入っていることに気付いた。データが抹消されていることを訝った浦岡は、高校時代のラグビー部の後輩である元刑事・皆川裕太に相談し、自分が酔い潰れたバー”ムー”に携帯電話を預けようとする。しかし”ムー”を訪れた浦岡を待っていたのは、ナイフで背中を刺されたマスターの死体だった。
慌てて現場から逃げ出した浦岡は、皆川の「携帯のことは黙っておいてください」という助言に従い、警察に出頭して尋問を受ける。担当刑事の奥田英彦は——かつて自分に大怪我を負わせた——皆川の関与を察知しつつ、新米刑事の青木とともに”ムー”の秘密を探っていく。いっぽう皆川は携帯の謎を追うことにした……。
 なんともオーソドックスな物語である。巻き込まれ型の容疑者をきっかけとして、刑事コンビの捜査と元刑事の(第二の殺人に関する)調査を並列的に描き、二つの事件が解決することで終幕——というプロットにさほどの新味はない。その弱点を補って余りあるのが、テンポの良い会話を軸にした圧倒的な読みやすさだ。明瞭なストーリーを敷き、必要な情報を効率的に埋めることで、本作には高いリーダビリティが備わっている。これは著者が放送作家であることと無関係ではないだろう。
 紆余曲折による迷宮感や重厚さには欠けるため、テレビドラマ的に過ぎると感じる人もいそうだが、それはもはや好みの問題に過ぎまい。定型をきちんと踏まえ、要所を押さえつつ、いささかベタな見せ場を用意し、歯切れの良いエピローグまで読者を導く——そんなエンターテインメントに徹した快作。とりあえず1次審査は軽々とクリアだ。

(福井健太)

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