第8回『このミス』大賞 1次通過作品 02

極度の妄想壁がある保育士の青年、23歳。
殺し屋の父を持つという園児や、主人公の隣の部屋にある死体。
主人公の妄想はどんどん加速し、コントロール不能となって……。

『12月8日』 荒牧周平

 この春から保育士になった僕(二十三歳)が、この物語の主人公。ちょっと変わってるのは、極度なまでの妄想癖があるところ。何かというと、すぐに妄想モードに突入してしまう。彼は保育園で裕太(五歳)から「僕のお父さんは殺し屋なんだ」と告白され、うちに遊びに来て欲しい、とも言われる。
 ある日、主人公がオンボロアパートの自室にいると、珍妙な中年男「ペットさん」が訪ねてきた。同じアパートに引っ越してきて挨拶周りをしているのだが、主人公の隣の部屋に死体がある、と語った。主人公が一緒に見に行くと、確かに人が死んでいた。しかし彼らは、面倒に巻き込まれるのを恐れて、自分たちは警察へ通報しないことにした。
 そんな頃、主人公は同僚の金沢沙希(美人)からアプローチを受ける。悪い気はしなかったが、彼女を自室に招待するとなると、壁一枚向こうには死体が転がっている部屋に入れることになる……と苦悩する。
 やがて、主人公の妄想癖がどんどん暴走するようになり、コントロール不能となる。毎回、勝手に「ツィギー」なる女性(美人)が登場してしまうのだ。主人公は沙希との関係を進めるにあたって、自分がツィギーに恋をしていることに気付く。頭の中の女性だというのに。
 そしていよいよ、裕太少年の家を訪ねることとなった。果たしてお父さんは、本当に殺し屋なのか……。
 主人公が保育士の青年で、極度の妄想癖がある——というと某有名マンガのキャラクターを思い出してしまうのはわたしだけではあるまい。主題は全く違うし、それを変更してしまうとこの物語自体が成り立たなくなってしまうので、これはこれでよいのである。
 妄想パートなど、こりゃまたずいぶんと饒舌だな……と思ったら、作者の荒牧周平氏はお笑いコンビ「モンスターエンジン」がトリオで「にのうらご」として活躍していた際、もう一人のメンバーだった人物だと知り、納得。この饒舌ぶりは作品そのものにも密接に関係しているのだが、さすがに少しは刈り込んだ方がいいのでは、とわたしは判断する。かえって、作品の魅力は増すことだろう。

(北原尚彦)

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