第8回『このミス』大賞 1次通過作品 01

彼の前から消えた女と、過去の幻影に現れる女。
二人の女を追う旅は、現代中国の暗部へ向かう。
洞窟の死体、失った記憶、垣間見える幻影が、独特の世界を創りあげる。

『星と月と陽のめぐりに』 赤坂彦

 新たな大国として台頭する中国。外国産の謀略小説でも近年出番が増えているが、『このミス』大賞の応募作でも現代の中国を扱った作品が増えてきた。本作もそのひとつである。
 雲南省の洞窟で見つかった岩絵。その調査に訪れた文化人類学者の岩井は、洞窟の中で若い女性の死体を発見した。それはまるで生きているかのような死体──いわゆる死蝋だった。
 調査を終えて日本に帰ってきた岩井は、調査にも同行したカメラマンの慶蘭と暮らし始めた。だが、交通事故に遭って前後の記憶をなくしてしまう。そして、慶蘭も彼の前から姿を消した。リハビリのさなか、彼は奇妙な幻覚を見る。戦前の上海で、彼は女と歩いているのだ。慶蘭の行方を追いながら、彼はクリニックを訪れて退行催眠を受ける……。
 謎の女性の正体を、そして自身が見る幻覚の正体を探るサスペンス。主人公・岩井は、自分の前から姿を消した慶蘭を探し、それと並行して幻影の過去に見た女性の正体をも探ることになる。慶蘭の意外な正体は、現代中国の抱える影とも結びついている。
 ロマンティシズムに強く傾いた物語で、過去の幻影の処理には超自然要素も絡んでいる。そのせいというわけでもないだろうが、作中に描かれる謀略や犯罪の組み立てには緩い部分も見受けられる。大っぴらにできない活動に手を染めているのだから、部外者に軽々しく内情を喋るのは止めた方がいいだろう。
 ただし、そうした欠点を埋め合わせるような魅力を備えた作品でもある。洞窟の死体、失った記憶と女性、垣間見える過去の幻影。そうした印象深い要素が絡み合い、独特の世界を創りあげている。
 印象深い場面がいくつもあり、そのたびに鮮やかな絵を脳裏に刻み込む。理よりも情に傾いた作品だ。

(古山裕樹)

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