第7回『このミス』大賞 2次選考結果 茶木則雄氏コメント

プロが交じるならハンディキャップ戦である

 まず、すでに小説を上梓しているプロ作家の応募作について、私見を申し述べておく。

 確かに、本賞も他の新人賞と同じく、プロ作家に門戸を開いている。畑違いのジャンルで執筆してきた作家が、渾身の『このミス』系エンターテインメントを世に問いたいと願うなら、たとえプロであっても尽力するにやぶさかではない。

 ただし、大賞を受賞できるのは、掛け値なしの傑作だけだ。1次はともかく、2次を突破して最終に残るのも、本来それなりに傑出した作品でなければおかしい。仮にその作品が出版できるレベルにあっても、プロなのだから当然だろう——というのが、かねてからの持論だからだ。前回『蛇と林檎のゲーム』を評価しなかった最大の理由もそこにある。

 そもそも、新人賞の選考過程において、まったくの新人とプロとを同列に比較することは、不公平の謗(そし)りを免れない、と私は考えている。編集者のアドバイスや校閲の指摘を受け、プロとして作品を練り、推敲を繰り返してきた人間は、それなりのハンディを背負うべきだろう。伸びしろを考慮すると、一般の応募者よりハードルが高くて当然だと思う。

 はっきり言う。プロが混じるなら、もはやハンディキャップ戦である。
 この私見は今回、他の2次選考委員と編集部の賛同を得た。したがって2次選考においては、「『このミス』大賞」の公式見解だ、と思っていただいていい。

 今年の2次選考は、その、プロが混じってのハンディキャップ戦だ。混戦模様にますます拍車がかかり、議論は尽きないか、と思いきや、比較的すんなり収まった。とはいえ、今回の2次のレベルは相対的に高く、議論を尽くすまでもない、と最初から感じていたのはわずか3作のみだ。

『炎のなかで眠れ』『楽園への翼』『禁じられた街〜Streets of the Vampire〜』は、肝心要の文章力が、そもそも最終レベルに達していない。以前にも選評に書いたが、混戦状態で真っ先に弾かれるのは筆力のない作品である。文章力は競馬でいうところの“持ち時計”と同じで、応募者の実力を公平に測る最大の目安だ。展開やライバルの如何にかかわらず、将来性の有無を判定する最も重要な判断基準である。今回15本の候補作の中で、紋切り型の表現やチープな比喩を多用した作品は他にもあったが、ページを繰る手を止めていちいち添削したいと思ったのは、この3作だけだった。設定や構成やプロットに多少なりとも見るべきものがあったからこその、1次予選突破であろう。この3名には、まずは文章力を磨け、と申し上げたい。

 そのために成すべきは、文章に定評のある作家の作品を数多く読み、なかで気に入った作品を何点か、1冊丸ごとワープロ上で筆写することだ。持ち時計を上げるには、地道な努力しかない、と申し上げておく。

 実はその3作以上に、辛い点数をつけたのが『コミック・ジャック・ストリート』である。かつて2度ほど予選を突破しただけあって、持ち時計は悪くない。発想も斬新だ。映画や小説の世界に作者が閉じ込められるという設定はこれまでもあったが、コミック世界に閉じ込められた主人公を小説で描く、というシチュエーションは寡聞にして知らない。ただ、面白いのは発想だけで、展開されるコミック世界そのものがつまらない。私だけがつまらないのか、とも思い、他の選考委員と議論を交わす覚悟で臨んだが、概ね同意見だった。とすれば、これを面白がれるのは、ごく一部の好事家だけだろう。

『マインド・コンパイラ』『ストラグル』は、今回の2次では平均点レベルの作品であった。持ち時計もそれなりにあり、設定やストーリーも悪くない。この賞に限らずどの1次予選でも、おそらく突破できるだろう。それくらいの実力はある。しかし両者とも突き抜けるものがなく、印象に残るほどの人物の厚みも感じられなかった。構成もいささかぎこちない。趣向の似ている既存作品と比較して一段も二段も落ちる、というのが実感だ。キャラクター造型と構成力を、もっと磨くべきだろう。

『暁光の誓い』『原発破壊マニュアル』は、共に持ち時計の高い応募作である。筆力そのものは、最終に残った作品と比べて遜色ないものがあった。問題は2作とも、類型の域を出ず、しかもプロのレベルに達していないところだ。前者は初期の北方謙三や白川道のエピゴーネンでしかなく、その手のエピゴーネンが選考委員にウケるかどうかを——少なくとも商業的にウケるかどうかを、真剣に考えてほしい。後者も麻生幾や建倉圭介の域にはまだまだ到達していない。テロの側の論理とテロリストの造型が浅薄なのが、最大の弱点だろう。

 多くの応募者に言えることだが、エンターテインメントである以上、自分が書きたいからという自己満足ではなく、マーケティングや世相を踏まえて、作品のテーマやジャンルを選ぶべきだ。まず読者ありき、という大前提を、肝に銘じて欲しい。

 落ちた作品のなかで個人的に最も楽しめたのは、『予告編の天使』だった。私のような半端な映画ファンが読んでも面白いのだから、映画好きはかなりくすぐられる作品だと思う。面白さのポイントは、実在の映画の予告編がどう作られているかの創作過程にある。もし実際にその通りなら、架空人物である主人公が作ったとするのは問題があるし、もし過程が作り事であるなら、実作者がいる以上、それはそれで問題ありだろう。いずれにしても、商業作品としてこれは禁じ手である。キャラクターは印象的だし、持ち時計も高い。虚実を巧にない混ぜる力量があれば、最終に残れた作品と思う。捲土重来を期す。

 ハンディキャップ戦でなければ、おそらく最終に残っていたであろう、と思わせたのがプロ作家の応募作『ウェンディに伝えてくれ』だ。ちょっと手直しすれば、すぐに出版できるレベルにある。率直に言って、面白く読めた。個人的には昨年のプロ応募作よりも評価するが、しかしそれでも、受賞レベルには到底、至っていない。実際、最終に残った何本かの作品より選考委員の評価を足した総合点は低かった。最大の弱点は、ご都合主義的なプロットだ。話は面白いが、読み終わった瞬間、何だかなあ、作者の都合だけで捏ね繰り回した作品だよな、と感じられてしまうのは否めない。現時点では、ハンディに打ち勝つほどの力はない、というのが、2次選考会の一致した見解だ。

 非情である、とは思う。が、それがハンディキャップ戦だ。

 最終選考に残った作品は概ね、どれが受賞しても不思議ではない力作揃いだ。今年は本命不在の団子レースだと思っている。最終選考委員の一人である私も、結果は蓋を開けてみるまでわからない。

 いつも以上に、気合を入れて、最終選考会に臨みたいと思う。

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