第7回『このミス』大賞 2次選考結果 村上貴史氏コメント

玉石混淆だった2次選考

 今回の2次選考は、正直なところ玉石混淆であった。そして、玉と石との判別については、2次選考委員の間で明らかに意見の一致をみた。普段であれば、1次通過作品の出来映えはそれなりに高いレベルで拮抗しており、選考委員それぞれの着目点の相違などで議論となるのだが……。
 というわけで、今回は最終候補とする作品を6作まで絞り込むことはすんなりと決まった。しかも、そのうちの4作品については全選考委員の意見が一致し、残る2作品のどちらを選ぶかという点のみが、例年のような議論となったのである(というか、私が他のお二方に抗ったというべきか)。その6作品以外の、あっさりと落選した9作品について、応募者名の50音順にここではコメントを述べておこう。

 梅津俊紀『禁じられた街〜Streets of the Vampire〜』は、主人公の女刑事の行動(関係者に恋心を抱くとさっさとアプローチしてしまうなど私情で動きすぎる)点と、作者がサプライズとして読者に提供しようとしている衝撃が早々に見抜けてしまう点が、大きなマイナスポイント。後者は作品の骨格にかかわるため、修正は困難と判断する。

 黒神賢/巧『原発破壊マニュアル』は非常に愉しく読めた作品だが、最後で失速。執筆時間不足でとりあえずピリオドを打ちましたという感が否めない。また、敵役について、組織としても個人としても造形が足りない。その点を補えばグンとよくなる作品であろう。とはいえ、単にイスラムのテロリストを登場させるだけでなく、20世紀に散々書かれてきたこのタイプの冒険小説を現在書くことの意義をそれ以上に明確に打ち出せないと、新人賞では苦戦するであろうことも付記しておこう。

 里見蘭『ウェンディに伝えてくれ』も読みやすかった。キャラクターもキャッチーでよい。だが、登場人物たちの関係に偶然が多すぎるのは大きな減点対象。主人公が初めて行った風俗店で接客してくれた女性が、たまたま自分の父親と繋がりのある存在であったとか、こうした「たまたま」ばかりでこの作品世界は構築されているのだ。他の投稿者は、そうした偶然を排除しようとあれこれ工夫していることを、この方にはお伝えしておきたい。

 島村ジョージは、いわば常連さんである。過去に惜しいところで賞を逃してきたことを考慮したのか、今回の応募作『コミック・ジャック・ストリート』では、大きく路線変更してきた。だが、コミックの世界に入り込んでの冒険という構想も、コミカルさを前面に押し出すという趣向も、いずれも本人の長所を殺している。『熱砂に死す』の選評で書いたが、奇抜さを狙わず、しっかり地に足のついた小説を書ける点がこの方の長所だと思う。今回の応募作はそれとはまるで逆の方向性だった(それでも2次に上がってくるのがすごいが)。御自身が本当に何を書きたいのか、もう一度見つめ直してみてはいかがか。

 竪山利治『暁光の誓い』は、格闘シーンでの体言止めの使い方を含め、まるで北方謙三のハードボイルド小説である。まとまりはあるが、それ以上のものではない。北方謙三ではなく、竪山利治の作品を読みたいと思わせるオリジナリティや新鮮さがないのだ。これでは最終選考には残れない。

 谷門展法『楽園への翼』は、大仕掛けなパニックサスペンスに誘拐やら殺人やらを絡めた作品で、部分部分はそれなりに愉しく読めるのだが、全体としてはやはりいびつ。幹と枝のバランスを考えずに、とにかく積み上げたという不安定さを解消することを考えてみていただければと思う。

 夏井優綺『マインド・コンパイラ』は、黒幕の計画に不満が残った一作。作品中でのテクノロジーの使用については愉しく読めたし、青春小説としてもそう。それだけに、(以前落選した『レミングの塔』でもそうだったが)全体の設計図について、辻褄合わせではなく如何に説得力を持たせるかを、必死で考えるべきだろう。

 半田浩恵『予告編の天使』はチャーミングな青春小説だが、ミステリとしての要素はトッピングに過ぎない。また、実在する予告編のアイディアを作品に取り込む手法にも疑問が残った。本賞への応募には不向きな作品であったといえよう。

 村上暢『炎のなかで眠れ』は、大風呂敷を広げている点は高く評価したいが、その風呂敷の縫製がどうにも雑。こうなるとスケール感がむしろ空疎さに繋がってしまう。パーツと全体のバランスを考えて欲しい。また、時代小説としての表現(セリフで用いる言葉の選び方など)にも注意を払うべきだろう。

 以上9作に加えて、最後の最後で落選したのが佐藤菁南『ストラグル』。私が「抗った」作品である。複数視点を組み合わせての物語で、その長所については1次選考時のコメントで書いたとおり。但し、2次選考の議論のなかで視点人物の一部について決着不足という指摘があり、それにはどうにも抗えなかったので、落選に同意した。次回は有無を言わせず最終に勝ち残れるよう、より隙のないオリジナルな作品を目指していただきたい。

 最終選考に進んだ5作品のうち、塔山郁『毒殺魔の教室』と山下貴光『屋上ミサイル』の2作品は私が1次で推した作品であり、まったく異論はない。残る3作のうち、まず、中村啓『霊眼』は序盤のインパクトでの勝利といえよう。スピリチュアルな要素を含め、自分が書こうとする対象を描ききる筆力はかなりのものである。春畑行成『GoB』は、誘拐ミステリーとして大きな問題点なくするする読ませた点を評価したい。もう一歩踏み込んで、主役の心境や刑事側の造形などを考えると不満も残るが、最終選考には進めるレベルではある。藤木裕子『臨床真理士』は、クライマックスを含め不自然さは残るが、醜悪な題材を見事にミステリとしてまとめ上げた手腕を評価したい。

 玉石混淆だった2次選考だが、最終選考に残った作品は例年通り高水準。なかでも『毒殺魔の教室』と『屋上ミサイル』が優れていると思うが、さて、最終的にはどのような結論になるのであろうか。結果発表が愉しみである。

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