第7回『このミス』大賞 2次選考結果 千街晶之氏コメント
最終選考結果がこれほど楽しみな回はない
今年の2次選考は紛糾することもなく、わりとすんなり決まった。残した5作は、総じて水準が高いばかりでなく、互いに作風がほとんど重なっていないので、最終選考でどんな結果が出るか予測が極めて難しい。そのぶん、結果発表がこれほど楽しみな回もない。
『毒殺魔の教室』は、恩田陸の『ユージニア』を想起させる構成。女性同士の確執の描写が実にリアルで引き込まれる(タイトルは幾分古めかしい気もするが……)。『屋上ミサイル』は、筆力で言えばダントツだろう。もう少し短くても良かった気はするものの、登場するキャラクターがとにかく魅力的。『臨床真理士』はディテールに粗さが目立つ作品だが(犯人の行動に、心理的に納得し難い部分あり)、手直しは充分に可能。共感覚というモチーフの扱い方に無理がない事は評価したい。『霊眼』は、とにかく冒頭の凶悪さに尽きる。いろいろホラー小説を読んできて、ある程度グロ慣れしているつもりだが、この作品には本当に吐き気を催した。いやはや、冒頭でこれだけ強烈なインパクトを刻み込むとは只者ではない。もっとも、オカルト的モチーフの扱い方にはやや危うさも感じるのだが……。『GoB』も悪くない出来なので(減点法で採点すれば有利だろう)、最終に残すことに異論はないが、個性的な他の候補作と並べると印象は稀薄。もっとも、私がそう感じた作品が最終選考で高く評価される例もあるので、これを読んでも落ち込まないでいただきたい。
次に、惜しくも2次止まりだった作品について。
個人的に「あと一歩」と感じたのは『ウェンディに伝えてくれ』『原発破壊マニュアル』『予告編の天使』『マインド・コンパイラ』の4作。『ウェンディに伝えてくれ』はプロ作家の作品だけあって非常に読みやすいが、ややご都合主義的な設定が気になった。『原発破壊マニュアル』は、長所も短所もとにかく極端な作品。原発のシステムなどについてのリサーチ、サーヴィス精神の豊富さ、サスペンスの盛り上げ方などは評価したいと思うが、反面、キャラクター造型の薄っぺらさはフォロー不可能な水準だと感じた。『予告編の天使』はとても楽しく読めた(個人的な好き嫌いだけで言えば上位3作には入る)。タイトルの意味が判明する瞬間の納得度も高い。ただ、実在の映画やその予告編のこういう扱い方は如何なものか。作中のディテールから推測して、たぶん作者は実際に映画関連の業界にいたのではないかと想像されるが、登場する予告編の制作にも実際に関わっていたのだろうか? もしそうでないとすれば大きな問題が出てくるのでは——という指摘があって、強く推すことを躊躇わざるを得なかった。『マインド・コンパイラ』も嫌いになれない作品で、同じ作者の以前の応募作『レミングの塔』よりはよほど好感を持てるのだが、1次選考委員の指摘通り、やはり無茶に無茶を重ねたいびつさは否めない。今までの2作を読んだ限り、発想力の面では尋常ならざるものを秘めていると感じるので、その発想にリアリティを持たせる努力をしていただきたい。
他の作品は、「あと一歩」ではなく二歩か三歩が必要だと感じた。『ストラグル』は高く評価した選考委員もいたが、私は低めの点数をつけた。こういうタイプの作品を書くのであれば、伊坂幸太郎の『ラッシュライフ』や恩田陸の『ドミノ』を読んで、構成やキャラクター造型を学んでほしい。『炎のなかで眠れ』は、この賞の応募作としては珍しい伝奇時代劇。以前にも書いたが、時代小説というのはミステリーとは違った意味でうるさ型の読者が多いので、かなりハードルが高いということは心得ておいていただきたい。大風呂敷の拡げ方は評価したいが、筆力やキャラクター造型がそれに追いついていない。『禁じられた街〜Streets of the Vampire〜』は、もう少し真犯人を隠す努力が必要だった。『暁光の誓い』は、今世紀に書かれたとは到底思えない古めかしい小説。一種の「様式美」としてフォローすることも可能だが、少なくとも新人がこういう作風で賞を狙っても、通る可能性はほとんどないと言っていい(他の新人賞であっても同様)。筆力はある人なので、新味のあるモチーフを探してみることをお勧めしたい。『コミック・ジャック・ストリート』の作者の小説は過去2回読んでいる。その2作と全く作風を変えてみせた意気込み自体は評価に値するものの、明らかに路線変更の方向を間違えている。今回の応募作で明瞭になったが、コミカルな路線は資質的に向いていないようだ。『楽園への翼』は、作中に出てくる建物以前に作品の構成そのものが欠陥工事という印象。作者は自分で読み返してみて、この物語がいろいろ不自然だと感じなかったのだろうか。少々きつい言い方になってしまうけれども、「小説の書き方」と「ミステリーの書き方」、両方を一から勉強し直す必要があるのではないか。















