第7回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史氏コメント

『ボクら星屑のダンス』 三田村学
『ソロモンの積木箱』 黒澤主計
『ざくろ》サイコキルガール@15』 暮逆京助

村上貴史コメント

 今回の1次選考において、応募作の何割かを読んだ段階で「これはもう一次通過確定だろう」という手応えを得ながらも、その後読んだ作品に追い抜かれていった小説がある。
 なかでも特に惜しかったのが三田村学の『ボクら星屑のダンス』だ。金に行き詰まって自殺しようとした中年男の久平が、その現場で同じく自殺しようとしているヒカリという子供と出会い、その自殺をやめさせようとしたことで二人は共犯関係を築く。ヒカリが自殺を思いとどまる代わりに、久平も自殺をやめることとしたのだ。久平の問題を解決するには金が必要。そこで彼等は、ヒカリが国家レベルの秘密プロジェクトから逃げ出してきた天才であることから、ヒカリを人質とするかたちで十億円を奪い取る計画を立てた。こうして物語は、ヒカリと久平、それに数人の仲間が、大組織を相手にした大金奪取を目論むという犯罪小説として進んでいく。その過程で著者は、人質をネットオークションにかけるなどいくつものアイディアを披露しており、また、最終的な大金奪取の仕掛けでも妙案を示した。キャラクターの造形も確かで、こちらも文句はない。第四回の本賞において『劇団「あんこう」の犯罪』で二次選考で落選した際の問題点も解消されている。十分一次は通過するレベルなのだ。ならばなぜ落選したかといえば、強力なライバル三作品を相手とした闘いにおいて、本作品のいささかの傷——警察側があまりにあっさり出し抜かれてしまう点——が致命傷となったのだ。新人賞は闘いである。油断は見せないようにしていただきたい。第四回と今回でこの人の作品を二度読んだが、いずれも愉しめたので、今後にも期待する次第である(第五回は古山予選委員の担当で、次回作に期待となっている点も、この方の実力を感じさせる要因の一つだ)。
 それに準ずるのが、黒澤主計『ソロモンの積木箱』と暮逆京助『《ざくろ》サイコキルガール@15』の二作。
 『ソロモンの積木箱』は、まず自分探しの青春小説として飽きさせない出来映えであり、さらに、囁き魔——狙いを定めた人の周囲に悪意のある情報を真贋問わず流して追い詰める——の真相追究や、その過程で浮かび上がってくる“ソロモン”なる存在の秘密を探る物語としても非常にスリリングに読める。一次通過作品と比較した場合の本作の問題点は、脇役の造形と整理だろう。もちろん物語を進めるにあたってそれなりの必要性があるから主人公以外の人物も登場するのであるが、それらの人物があまりに作者に都合よく使い捨てられている。主人公の相棒にしてからがそうだ。脇役のなかでもメリハリをきちんと付けるなど、主人公以外への配慮をさらに徹底すれば、上位に進める作品になったことだろう。ちなみに、この方の『オーレ・ルゲイエの白い傘』(第五回の本賞の最終候補作)は全く愉しめなかったが、本作は実に愉しく読めた。その点もこの方の成長を物語るプラスアルファとして付記しておきたい。
 『《ざくろ》サイコキルガール@15』は、作品に充満する“悪意”がどうにも愉しくない小説。読んでいるこちらが冷笑されているような気分になるのだ。過去の本賞受賞作などを揶揄する文章も、作中に不必要に登場しており、これまた不快な気分になる。それが幼女強姦やらスナッフフィルムやらという要素と組み合わされているのだ。読んでいて愉しくなる要素などまるでない。にもかかわらず、だ。この作品はぐいぐいと読者を引っ張っていく。ストーリーの基本は復讐。幼い頃に陵辱された少女が、長じて復讐に乗り出すという物語で、その観点では非常にエキサイティングである。裏切りまた裏切りというスリル、さらに敵の強大さと周到さ。いずれもきちんと描き出されている。この復讐譚としての問題点は、最終的に敵があまりにあっけなく瓦解するところだろう。ここがきちんと書けていれば、全体を取り巻く悪意といった、ある種個人的な印象とは無関係に二次選考に上げていた。他の選考委員の意見も聞いてみたかったからだ。腰砕けの着地でなければどうなっていたか。その想いは今でもある。
 その他、「次回作に期待」とした三作よりは落ちるが、気になった作品について。黒木隆志『BlackBox』は、東野圭吾『白夜行』のように中心を描かずに周囲を丹念に描くことで全体像を読者に感じさせようとしたのだろうが、練り込みが不十分と思われる。“思わせぶり”にとどまっているのだ。とはいえ、それでも読ませる筆力はさすがだ。筆力という点では、コシヤユキヤ『新撰組奇譚〜mybloodyvampire』と大国屋悠一『淋しい漫才』も注目に値する。前者は時代ホラーであるが、筆力の割にところどころで描写があっさりしすぎていてもったいない(単調な説明文になっている)。頁数には余裕があったのだから、書き込みが欲しかった。後者は、物語を時系列に並べないという構造と、物語の展開のもたつきがもったいない作品だった。この筆力であれば、ストレートに書いても十分に読ませる作品になったと思う。やはり時系列に並べなかったことで損をしているのが草刈あきお『魂を凍らせて』。様々な過去のエピソードが挿入されているが、それを暴力団への復讐の物語として一つの大きな流れにまとめ上げる工夫をしてみて欲しかった。特に最後の二作品についてだが、時系列を操作するということは、作者の都合に過ぎないという側面もある点に気をつけて欲しい(1次通過の作品群のように、もちろん技巧として演出するレベルに至っていれば別)。これらの四作品においては、自分の取った手法が適切か、もう一歩つっこんで考えてみていただければ、飛躍的な向上が期待できる。

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