第7回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹氏コメント

『アイドルをはがせ』 如月太郎
『天国は激しく襲われる』 高田亮
『蛇女房(スネーク・ワイフ』 上野哲也
『きみの声と大切なもの』 西川博幸

古山裕樹コメント

 1次選考通過作品を決める際に最後まで迷ったのが、如月太郎『アイドルをはがせ』だ。かつて芸能プロに勤めていた父が持っていたノートをもとに、語り手が往年のアイドルの隠された過去を再構成する物語だ。語り手の想像に登場する、芸能界でのサバイバルのためには手段を選ばないアイドルの姿が印象に残る。語り手はかつての歌手に向かって自らの仮説を語るものの、相手にその仮説を覆されて、さらにクライマックスには大胆などんでん返しがある。ここでこれまでの仮説が改めて覆されるという趣向だが、もともとの仮説自体が語り手の想像に多くを負ったあやふやなものなので、逆転の効果も薄れて、せっかくの仕掛けが空回りしてしまっているのは非常に残念だった。これまでストーリーに登場していなかった(語り手の視野には存在しなかった)人物が実は存在していた、という仕掛けだが、その「別人物」の存在については伏線が希薄なために唐突に感じられてしまうところも、その効果を弱めてしまっている原因の一つだろう。構成や叙述方法を見直すことで、より鮮やかな驚きを産み出せるのではないかと思い、今回の通過作品には含めないこととした。

 また、高田亮の『天国は激しく襲われる』は、奔放な少女たちの壮絶な復讐劇として楽しめた。ただし、激しい出来事を盛り込みすぎた結果、物語全体のトーンが均一になってしまったのは残念。少女たちの一人が遭遇する凄惨な体験が、周囲の激しさによって、その印象が薄れてしまったように感じられた。物語全体での強弱のバランスを意識すれば、十分に一次通過を狙える作品である。

 そのほかでは、上野哲也『蛇女房(スネーク・ワイフ)』も忘れがたい個性を備えた幻想譚だった。主人公が、その生涯にわたって愛した女性との絆を淡々と語る、伝説と結びついた幻想的な物語に仕上がっていた。ただ全体のトーンがあまりに抑制されたものだったため、本来ならドラマティックに盛り上がるはずの個所も淡々とした様子で終わってしまうところが惜しい。

 西川博幸『きみの声と大切なもの』は、荒削りながらも書きたいシチュエーションがはっきりしていて好感を抱いた。ただし、この特異な状況を成り立たせるための様々な設定が、どうしても「設定のための設定」にしか見えず、説得力を伴っていないところに限界を感じた。作ろうとしている状況そのものには魅力があるので、それを成立させる土台にも十分気を使っていただきたいところ。

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