第7回『このミス』大賞 次回作に期待 膳所善造氏コメント

『リバルディア』 植 大介
『女郎の巣』 克海 哀
『氷蓋』 西田知秀
『懸崖の嘆き』 載天洙吏

膳所善造コメント

「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」。これが、『このミステリーがすごい!』大賞が求める作品です。今回、1次を通過できなかった作品の何割かは、そもそも、この応募規定から外れるものでした。いかに面白く“小説のような体験”であっても、それをストレートに綴っただけでは、“のようなもの”にしかなりません。まして、広く不特定多数の読者を楽しませることは無理というものです。珍しい職業、変わった経験は、作品を書く上での貴重な“ネタ”ですが、そのまま出すだけでは“美味しい料理”にはなりえません。読者を楽しませる、という当たり前のことを常に第一義として執筆を進めてください。

さて、以下の四作は、そうした基本は優にクリアしているものの、残念ながら一次通過には至らなかった作品です。
 『リバルディア』は、お人好しな大学生が、アパートの自室に現れた美少女の幽霊に命じられて、彼女を殺した犯 人を捜す羽目になるというファン タジック・ミステリーです。霊界特有のルールに則ってすすめられる推理と真相の解明はなかなかよく考えられており、きちんと伏線も張られていて、ミステリーとしても十分に愉しめるものでした。たまたま、前回に引き続き私が1次を担当させていただきましたが、「次回作に期待」となった前作に比べて数段レベルアップしています。では、なぜ通過に至らなかったのかというと、作中作「リバルディア」が、主人公二人を繋ぐ核としては、今ひとつ力量不足な為です。この程度の共通項では、やはり守護霊となるには説得力が感じられませんでした。あと、脇役の幽霊たちが、通り一遍にしか描かれていない点もひっかかりました。出す以上はもっと筆をさくか、いっそ登場人物を絞った方が、物語が引き締まっていいと思います。文章力、キャラクター造形力、構成力ともに水準をクリアしており、1次突破まで、あとほんの少しのレベルにありますので、次回に期待いたします。

 『女郎の巣』は、独特の味わいのある怪異譚です。廃屋の建ち並ぶ遊郭でなぜか一軒だけ営業していた小屋ので手招きする老婆。恋人を失い生きる気力を喪失した主人公は、引き寄せられるままに小屋を訪れ、老婆が語る同じような境遇の馬鹿な男達の死に様に耳を傾けることになります。読み始めてすぐに、物語の世界に引き込む力量はなかなかのものです。過去から連綿と続く、死に場所を求めて彷徨う男達の物語も面白いのですが、各々のエピソードが似た味わいである為、読み進めるにつれて小説として中だるみしてしまう点がマイナス点となりました。

 『氷蓋』は、今ホットな話題である地球温暖化をテーマとした、スケールの大きな謀略冒険小説です。北極圏の氷を破壊するテロリストという設定に、まずひかれました。それを食い止めるのが、環境問題専門のカメラマンであり、舞台がカナダ極北のイヌイットの集落に終始するという点もグッドです。大いなる変革を予感させるラストも成功していると思います。ただ、主人公にストーリーを進めさせるのに手一杯で、後半特に物語りが駆け足になり、説明調となってしまった点が残念です。もう少し、人物造形を掘り下げ、環境問題やイヌイットに関する問題提起に関する蘊蓄部分を刈り込めば、もっとバランスがよくなると思います。

 『懸崖の嘆き』は、大学の付属病院で手術室がハイジャックされるというサスペンスフルな作品です。緊迫感あふれる密室劇であり、ハイジャックものの新たなパターンとして目の付け所はいいと思います。ただし、狭い世界の中で、人間関係があまりにご都合主義的に複雑に絡まり合っているのは、大きなマイナスです。まるで世界が百人の村のように感じられ、作品を矮小なものにしてしまいました。結果として、作者が犯人を通じて語りたかった現在の医療現場が抱える問題点が、社会的な問題というよりは、個人の愚痴のように響いてしまったのは残念です。一歩引いた立場から、娯楽作品として昇華すれば、良質な社会派サスペンスになると思います。

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