第7回『このミス』大賞 1次通過作品

『コミック・ジャック・ストリート』 島村ジョージ

 有名漫画家が、なぜか自分の作品の中に閉じこめられる。彼を救出するため、そのアシスタントが二次元のキャラクターになりきって漫画世界の中に入っていく、という出だしからして掴みのインパクトは十分でしょう。三次元に生きる人間が二次元の世界に入っていったがゆえに、周囲のキャラクターたちとは違う行動がとれるという設定もおもしろい。たとえばこの世界では、音声のたぐいはオノマトペの書き文字としてしか認識できないのである。そうした漫画独自の表現に関する制約が、主人公の冒険に対する縛りとして働いてくるのである。これはよく考えましたね。某作家の幻のデビュー作を思わせる趣向だ。

 もともと会話の洒脱さなどに定評があった応募者なのだけど、今回もリズムがよく、ポップな雰囲気を醸し出すことに成功しています。シリアスよりもコミカルな要素を重視しているのでしょう。スラプスティックな場面もあり、スピーディに物語は展開します。

 気になるとしたら、舞台となっている漫画の世界が、あまりにも「何か」を思わせる要素に満ち溢れている点かな。たとえばこの作品における「神」は、漫画の作者である長居勉虫なのだけど、この人が手塚治虫の崇拝者だったため、作中には手塚キャラクターに良く似た登場人物が何人も登場する。そういう設定は「アリ」なのだろうけど、どうしても二次創作物という印象を読者に与えてしまうのです(手塚世界以外では、映画『ロジャー・○ビット』を連想した場面もいくつかあった)。最近のアニメーションやコミックの要素なども採りいれて作品の雰囲気が一色に染まるのを防ぐなどして、もう一工夫できたのではないのかな。ただ、「手塚風」であることは、作者が狙っている「小説全体の仕掛け」を阻害しているわけではないので、致命的な瑕にはなっていません。ひっくりかえしたおもちゃ箱のような魅力がある愉快な作品です。ぜひみなさんにも読んでもらいたい。

(杉江松恋)

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