第7回『このミス』大賞 1次通過作品

『ウェンディに伝えてくれ』 里見蘭

 作者はジュニア小説のほか、TV・映画のノヴェライゼーション、コミック原作などで既に活躍している。それゆえ、基本的文章作法は問題なく(その段階でひっかかってしまう応募者が結構いるのである)、安心して読むことができた。

 主人公・佐藤良介はさえないオタクの大学四年生。ニート志望で、就職活動も手を抜いている。彼はある時、坂道を自転車で走っていた男と衝突し、人格が入れ替わってしまう。その相手・玉村輝美は元暴走族で傷害の前科があり、女子高校生の真帆からもらうこづかいとパチンコで暮らしているという最低のドレッドヘア男。

 主人公はこれをきっかけに様々な騒動に巻き込まれ、なんとか元に戻ろうと足掻くうちに、半年前の交通事故に絡んだ事件について知ることになる。飲酒運転した十九歳の大学生が、幼児に重傷を負わせた挙句に、自動車が橋から落ちて本人は死亡したという事故。この事故の真因は、自動車の構造的欠陥の可能性があったのだ。事故の直前、ボンネットから火を噴いていたという目撃証言もあった。

 良介の(これまた)冴えない父親は、自動車メーカーのグループ企業に勤めているにもかかわらず、被害者側の証人として出廷しようとしていた……。

 主人公のドタバタぶりと、シリアスなネタとの混淆ぶりが、いい味を出している作品だ。「人格交換テーマ」の小説は過去に多数あるが、ただそれだけにとどまってはいないので問題ない。ただ、主人公がオタクという人物設定なのに、言動があまりオタクっぽくないところは気になったが、これは修正可能だろう。先述の通り、既に作家として活動していることもあって、非常にリーダビリティが高い。1次選考委員としては、これを残さないわけにはいかないだろう。

(北原尚彦)

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