第7回『このミス』大賞 次回作に期待 杉江松恋氏コメント

『牛天国』 吉美駿一郎
『世界の果て、終わりの果て』 真殿蛍太
『司法の檻』 下村敦史
『十七歳の憂鬱』 後藤康仁

杉江松恋コメント

今回も応募作全体のレベルが高く、1次選考通過作品を決めるのは容易なことではありませんでした。正直に言ってしまえば、この「次回作に期待」に上がっている作品は、他の新人賞ならば十分に2次選考まで通過できるはずです。それだけ1次選考委員の責任が重いものであるということを痛感しています。この欄でも、本来ならばもっとたくさんの作品について触れたかったのですが、目だった改善ポイントが見出せた四作品についてコメントを致します。

『牛天国』は応募作によくある観光ガイドをそのまま引き写したような作品ではなく、インドという舞台を細かな描写やキャラクターの人物設定の隅々に活かしきっていました。日本以外の場所を舞台として書く意味が十二分にある小説です。亜大陸の熱気が読者にも伝わってくる。それだけに気になったのは、作者は自らの描写の力を過信しているのではないか、という点でした。ところどころに必然性を感じない情景描写が挿入されている。刈りこめば、もっと緊迫感のある物語にできたのではないかと思います。

『世界の果て、終わりの果て』は人類が滅亡し、海底で実験を行っていた六人だけが生き残るところから物語が始まります。そんな滅亡後の世界においてなぜ犯人は人を殺そうとするのか、というのが大きな謎になっている。クイーンの『シャム双子の謎』を思わせる問題提起に、おおっと思って読みました。ところが、期待したわりにはその結論では、というのが正直な感想。せっかくの舞台設定を十二分に活かしきっておらず、ミステリーとしては「逃げ」の姿勢になってしまっています。キャラクターの配置なども含めて練り直せば、これは素晴らしい本格ミステリーになった予感がするのですが。

『司法の檻』は裁判員制度導入という最新トピックをテーマに持ってきた点が評価できます。しかも、きちんと法廷内の闘いを描いている。法廷小説としては正統派のきちんとした作品です。主人公の弁護士が破天荒な法廷戦術を使うのも定石通りでおもしろい。ただし結末がすっきりしない。これは、裁判員制度という大きなテーマをうまく使いこなせていないためです。ところどころで作者が物語を逸脱し、読者に向って「演説」してしまっている。そこは絶対に場面で、感じさせていただきたかった。この展開で、テーマの咀嚼が十分であったならば傑作になった可能性がある。残念だと思いました。

『十七歳の憂鬱』は犯人の動機などに独創性があり、犯行計画の柄の大きさなどもあって、最後まで落とすかどうか悩んだ作品でした。大作感もあり、新人賞の応募作としては十分な野心を有している。今一歩のところで一次通過に届かなかったのは、細部の処理が雑な点です。殺人の手口がかなり偶然性に頼ったものであったり、クライマックスの部分で安易なマルチアングルを採用したりしていて、練りこみが足りない箇所が多い。叙述形式の点でいえば三人称一視点を徹底するだけでかなり改善がされるはずです。

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