第7回『このミス』大賞 1次通過作品

『予告編の天使』 半田浩恵

 映画館で上映作品が始まる前に流される、近日公開作品の予告編。この予告編を目当てに足を運ぶ人は、恐らくいないでしょう。まして、見終わった後に拍手喝采される予告編なんて……。

 これは、予告編制作に魅せられた若きクリエイター・坪田奈々が、悪戦苦闘の末に、そんな〈奇跡〉を引き起こし、人として〈予告屋〉として成長する様を描いた小説です。劇場で、拍手が沸き起こるクライマックス・シーンを描いたプロローグ。そのラスト一行に記された、「一度しか使えない、反則ギリギリのある手段」とは、一体何なのか? 深夜、制作に没頭する奈々のパソコンのモニターに現れた金髪の少女は何ものなのか? 懇意にしているクライアントがふと漏らした<予告編の天使>とは、何を意味するのか?

 この三つの謎が牽引力となる一方、映画の予告編制作というあまり馴染みのない業界の内幕ものとしての面白さが推進力となり、最後まで一気に読み通してしまいました。ネタの勝利と言えますが、それだけではありません。何よりも、主人公の奈々がいい。普段あまりぱっとしない、会社でもいじられ役の奈々ですが、予告編制作にかける情熱は誰にも負けません。オーナーから、何をしでかすか解らない「暴走の坪田」なんていうありがたくないキャッチを賜るほどです。そんな彼女をはじめとして、会社の先輩達、やり手の美人クライアント、敵役となる広告代理店の営業マン、そして〈金髪の少女〉と、キャラクターが皆、生き生きと動き回り、奈々の一人称視点による粒だちの良い文章にのせられて進む物語は、爽やかな余韻を残しつつ幕を閉じます。

 ミステリーとして見た場合、謎が犯罪にかかわるものではないため、やや小粒に感じられるかもしれませんが、無理矢理殺人事件を絡ませたりしない点にむしろ好感を持ちました。読後、何だか元気が沸いてくる気持ちの良いエンターテインメントです。

(膳所善造)

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