第7回『このミス』大賞 1次通過作品

『楽園への翼』 谷門展法

 一読して、この小説の作者はとんでもない貧乏性なんだろうなと思いました。貧乏性というと印象が悪いかな。サービス精神過剰と言い換えましょうか。とにかく、アイデアをふんだんに盛り込まないと、小説を書いていて不安で仕方なくなるのではないかと思う。一作あたりのアイデア量ということで言えば、『楽園への翼』が今回の応募作中のベストであったはずだと断言できます。

 物語の舞台となるのは巨大なリゾートホテルだ。とある海岸沿いに建てられていて、地上部分だけで五十階、さらに海底から三十階の海中部分がそびえ立っているというとんでもない作りなのである。サスペンス小説でこういう建造物が出てきたら、それは災厄に見舞われるものと相場は決まっていますが、このリゾートアイランド・クラニシもたいへんなことになります。欠陥工事のために地上部分で崩落事故が起きて犠牲者が出る、くらいは序の口で、なんと海中部分で窓が割れ、浸水してしまうのですね。こうしたことになってしまう背景には人災の要素があり、蔵西商事の社長令嬢を狙った誘拐事件やら幼児売買組織の暗躍やらの、人間どもの醜い争いが緊急事態を引き起こしてしまうのであります。

 惜しむらくは、詰め込みすぎの観があること。矢継ぎ早に事件が起きるのはかまわないのだけど、一つの箱の中でそれが起きているということに現実味が感じられないのである。巨大建造物が小説の影の主人公であるのに、その設定が甘いというのがすべての元凶でしょう。そうした建築物が物理的に実現可能か、可能ならば緊急時の避難体制はどうなっているのかといった細部をきちんと詰めてもらいたかった。ディテールをおろそかにして小説は成立しないのであります。でも、この心意気は買う。『ポセイドン・アドベンチャー』にはなりそこねたけど、愛すべき大作でありました。

(杉江松恋)

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