第6回『このミス』大賞 2次選考結果 茶木則雄氏コメント
愛のムチ、と腐らずに受け止めてほしい
今年ほどがっかりした2次選考はない。
いや、最終に残った作品は例年と比較しても遜色なく、粒揃いであった。個々の作品についての評価は割れたが(ちなみに私は、最終に残ったある作品をまったく評価していない)、全体のレベルが低かったわけでは、決してない。
がっかりしたのは、昨年最終に残った2人の候補者の作品が、期待値を大きく下回る出来だったからだ。
断っておくが、1次を通過するレベルですらない、と言っているのではない。たとえぎりぎりの線であっても、1次通過レベルには達していると思う。両者とも相応の実力が具わっていることを認めるに、やぶさかではない。
ただ、選考に携わる者の立場で言えば、最終まで残った候補者の次作には、それなりに居住まいを正して向かいたくなるものだ。前回指摘された欠点をどう克服しているのか。作品のタイプはどうなのか。大きく変わっているのか。それとも同じ路線をより深く探求したのか。多少なりともアドバイスを贈った側としては、選評がどう生かされているか、気になって仕方がない。はっきり言って、期待するなという方が無理だ。
しかし残念ながら、両者に贈ったアドバイスは(他の選考委員のものも含めて)まったくと言っていいほど、生かされていなかった。
『亡霊台風』は指摘された欠点をそのまま、残さず引きずっている。自然災害に経済的陰謀を絡めた物語の結構も前作『大地鳴動し 霊山咆哮す』と同じだけに、よけい新鮮味が感じられない。舞台装置やネタはいいのだ。うまく書けば面白くなるであろう可能性は、秘めた作品である。しかし、人物があまりに薄っぺらい。ステロタイプという言葉を使うことさえ憚られるほどだ。架空とはいえ、かりにも防災「省」である。省庁に勤める人間が、たとえ若い女性であっても、仕事中に同僚(主人公)を公然とファーストネームで呼んだりするものだろうか。恋愛関係にあるわけでもなく、相手は職場の先輩である。後輩でもありえないだろう。ウルトラマンの地球防衛隊じゃないんだから。仕掛けが大掛かりであればあるほど、この手の小説はリアリティが命になる。後半の「スパイ」にせよ、一事が万事この調子で、その肝心のリアリティが、読む側には欠片も感じられない。一言で言えば、小説としてのコクや旨みがないのだ。まるで長大なシノプスを読まされているかのような作品だった。
『蝉コロン』も前作『偽りの夏童話』で指摘された欠点をほぼそのまま踏襲している。つまり、今回も同様、独創性に欠け、既存作品の後追いの感が免れない。それなりに文章力がありまとまっているから、悲しいかなよけいにそう感じられてしまう。なおかつ今回、主人公に作者自身を投影させたかの印象が強く、まるで大学ミステリー研究会の同人誌に掲載された作品を、読まされているような感があった。最終選評でのアドバイス「作者にしか書けない長所が欲しかった」(吉野仁)という言葉の真意は、決して私小説的ミステリーを、という意味ではないはずだ。第一、そこは長所ではなく欠点としか捉えられない。作者自身、何を書けばいいの悩んでいる様子が、作中から明け透けに見えてくる。新人賞の応募作で、こうした態度は感心できない。今回、褒められるのはタイトルだけだ。
2名には非常にきつい書き方になったが、相応の実力があり、期待しているからこその叱咤激励である。愛のムチ、と腐らずに受け止めてほしい。腰を据えての次作を待つ。
『運命のカプリース』の作者が書きたかったのは事件ではなく、同性愛そのものではなかったのか。禁断の恋に落ちる者たちの描写には異様な迫力を感じられるが、それ以外の部分はかなり詰めが甘い。一言で言えば、作者の都合で人物が動いている印象が免れないのだ。ボーイズラブとしての出来は判断しかねるが、プロットに難ありエンターテインメントとしての出来は今ひとつ、と言わざるを得ない。
『神棲む森の旋律』で描かれる「カルト宗教」は、新人賞の応募作でよく見かけるテーマだ。そのなかでは比較的読ませる部類である。しかし、何度も言うようだがありふれた題材を選ぶなら、それなりの覚悟と工夫が欲しい。既存作品と比べて新鮮味に乏しく、完成度も低い。書き手としての技量をもっと磨くべきだろう。ちなみにどうやって磨くか。いい小説を何度も筆写するのが、ひとつの方法だと思っている。
『KID A』の作者はもっとリーダビリティを意識した方がいい。ひとつひとつの文章や描写は悪くないのだが、なにせ読み進めるのがつらい。次のページを繰らせる工夫が、ほとんど感じられないのだ。こういうタイプの応募者は結構いる。筆力もあるし、ストーリーも悪くないのだが、読者を意識していないタイプ。それこそ、作家になるためには重大な技量のひとつである。小説は自分が楽しむために書くのではなく、人を楽しませるために書くものだ、という点を今一度、肝に銘じてほしい。
惜しかったのは『神様のいる場所』と『笑いの神がいるのなら』だ。この2作は個人的に楽しめた。ページを繰らせる力は、落選した作品のなかではもっともある。ただ『神様のいる場所』はネタそのものが弱い。ホラーとしても青春小説としても傑出したものがなく、強く推せる部分がなかった。『笑いの神がいるのなら』は前半、これはっ、と思わせて大いに期待させてくれたが、後半のミステリー部分がまるでだめ。貧しい兄と妹がプロの漫才師を目指すあたりは非常に読ませる。が、伸し上がったところで、家族の秘密をネタに金を強請る恐喝者を殺害する犯罪の部分に、難があり過ぎるのだ。あのシチュエーションで人を殺すなら、すぐに容疑者に上げられるようなやり方は、まずしないはずだ。そこがしっかり練られていたらお笑い版『砂の器』と、褒め称えようと思ったのだが残念。作者には、完全犯罪を目指す倒叙ミステリー、ウィンター・シャピロ『俳優エディ・ブラック 殺しの代償』(光文社文庫)あたりを参考にしていただきたかった。
残った作品については、例年通り最終選評で語るつもりだ。ことに今回、私以外の2次選考委員が高い評価を下し、私だけ評価しなかった作品がある。
腕を撫して臨みたい。















