第6回『このミス』大賞 2次選考結果 村上貴史氏コメント

過去の受賞作より面白いか否かを物差しに

 最初に総論を記しておこう。今回の12作品は新人賞の2次選考としてはかなり高水準の玉石混淆だったといえよう。つまり、他の賞なら「玉」扱いされたであろう作品でも、この12作のなかにはいると「石」扱いされてしまうということだ。それだけ強力なライバルの多い賞であるということを、挑戦者各位はよく認識されたい。自分の作品が『チーム・バチスタの栄光』をはじめとする過去の受賞作より面白いか否かを物差しとするのがよかろう。

 さて、各論である。まずは最終選考に残った作品について。

 今回は1次選考で自分が推薦した3作品のうち、2作品が最終選考に残ったのだが、そのうちの一つ、森川楓子『林檎と蛇のゲーム』は、少女を中心としたスピーディーな物語という作風が、個々の要素の描き込み不足をうまくカバーして2次選考委員の過半数の支持を集めた。大人を主人公とした物語でもこの手法が使えるかどうかは疑問だが、少なくともこの応募作品については上手く機能していた。巧みな導入部、意外な展開、鮮やかな結末とその他の点は申し分ない作品であり、最終選考委員がどこを重視するか、興味深く見守りたい。

 もう一方の拓未紀司『禁断のパンダ』は、より強く2次選考委員から支持された。料理ミステリの定番をふまえつつ、さらにその一歩先を行った点が評価されたのだ。大賞獲得への期待大である。

 中山七里『魔女は甦る』は、筆力もあるし展開も意外性に富んでいて十二分に愉しめる一級品である。相棒となる登場人物の扱い(前半は役人、後半はヒロイン)についてもう少し整理が欲しかった気もするが、これはこれでありだろう。

 明治と現代という二つの時代を描いた桂修司『明治二十四年のオウガア』は、とにかく北海道での工事を描いた明治シーンの迫力に尽きる。それに対して現代の事件では読者の心を掴むポイントが不明確なまま腰砕けに終わっている。弁護士が怪異に襲われる導入部はなかなかよく書けているが、それが後半で明かされる事実とはまるで結びついていない。そうした大減点はあるものの、それでも明治部分は素晴らしく、最終候補とすることに異論はない。

 最後に中村啓『彷徨える犬たち』だが、よい出来映えである。ラストがあっさりしすぎているが、その点を除くと非常によい。悪徳警官コンビをはじめとして人物造形も達者だし、裏社会の「それっぽさ」もしっかりと存在している。しかしながらこの作品、新宿歌舞伎町を舞台とした警察小説という、新鮮味の全くない小説なのだ。既存の枠組みの中での実力は十分に伝わってくるので最終候補には残すが、自分なりの世界を見せて欲しいとも思う。

 以下は2次の落選作へのコメント。長所と短所を書いておくので耳を傾けていただければ幸いである。

 連作短篇集である卯月未夢『蝉コロン』は、最終話の演出が過剰で、大きなマイナスポイントとなった。友人のためを思ってとはいえ、一歩間違えば警察その他を巻き込んだ大騒動になり、友人そのものを傷つける結果になることは容易に予想できるはず。強引な小説作りが感じられた。とはいえ、その他の短篇についていえば、この瑞々しい世界観を多くの人と共有したいと思わせる力は持っているし、また、意外なネタを“男の子の一日小説”にしてしまう力量は大したもの。今後への期待は持てる(ただし、昨年の応募作に較べて今回は一ランク落ちた出来映えだったのは事実。今後何をどう書くべきか、じっくりと考えていただきたい)。

 武川エコ『神様のいる場所』は青春小説として、あるいはホラー小説として一応は読ませるが、後半の因縁セックスネタ連発がどうにも中途半端でうんざりした。徹底的にねっとりと書くか、あるいはさらりと流すかしてくれればいいのに。そもそもセックスを持ち出さなければ因縁が作れないのかという点から再考するのも手である。

 黒木隆志『KID A』は完全犯罪を目論む5人の男の物語を、もう一つの物語と絡めて描いているのだが、趣向を凝らした世界を構築しようという意欲が空回りしている。多くの中心人物を登場させているが、その描き分けは十分とはいえず、読み進むのがつらい一作だ。“作品の内容に見合った長さの作品を”という昨年のアドバイスが効いたせいか、今年は適切な長さの作品が多かったのに対し、この作品は、同じネタの繰り返しで引き延ばすような“水増し感”のある長さだった。複数視点で多面的に一つの事件を描くことの面白味は理解できるが、規定枚数上限ギリギリいっぱいまでひっぱるほどの内容とは思えない。演出についても長さについても、もっと読者視点で見つめ直すべきだろう。

 水月秋杜『運命のカプリース』は、主役以外の視点の描写が、かなり作者に都合よく使われていて、読者には不親切な小説となっている。個々の描写をとってみるとかなりの筆力を感じさせるのだが、構成に難がある。例えば、重要人物が殺害されることで争点そのものが消失してしまったり、また別の重要人物が前半だけで使い捨てられていたりと、その場しのぎを続けていって小説が出来上がったように見えてしまう。全体の設計図をきちんと描くべきだろう。

 水木ゆうか『神棲む森の旋律』も、誰の視点で物語を進めるべきかについてもっと考えて欲しい作品。後半にはいると中心人物がはっきりしていてスピーディーに読ませるだけに、前半が何とも残念である。人物造形としては、特に少年描写に冴えを感じた。ここはさらに磨いていただければと思う。

 平野晄弐『亡霊台風』は、同経路の台風が連続発生する謎に加えて、新聞記者の葛藤、台風ハンターの葛藤、アジア共通通貨の導入などネタは盛りだくさん。しかしながら、それをエンターテインメントとしてまとめ上げるやり方があまりに杜撰である。亡霊台風の“犯人”が証拠を残しすぎだったり、“実は悪い人でした”という演出にしても真相が透けすぎていて驚きに欠ける。キャラクターにも新鮮味がない。そして、なにより、昨年の最終候補作からの進歩が感じられない。自然災害と経済を組み合わせるという着想をどうやって小説にするかを徹底的に再考すべきだろう。

 田中宏昌『笑いの神がいるのなら』はお笑いコンビの成功ストーリーとしては支持されたが、犯罪を巡る要素が弱すぎるとの批判を受けた。私が1次通過の際にポイントとした決め手となる手掛かりの出し方の上手さは評価されたが、作中の犯罪計画そのものの弱さを、やはり作中の警察捜査のぬるさでカバーすることになっていることのミステリとしての弱さは否定し得なかった。作者の意図としては、完全犯罪であるが故に警察がなかなか真相に辿り着けないと書きたかったのだろうが、そのレベルではなかったということだ。小説としては視点のぶれもなくきっちり読ませる仕上がりなので、犯罪計画の緻密さを向上させていって欲しい。

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