第5回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史氏コメント

『RANK』 真藤順丈
『歩—いちほ—』 詰草
『蒼の部屋』 泉水森志
『アヴォイドノート』 佐藤菁南
『鏡像』 川野達哉

村上貴史コメント

1次選考を通過した『偽りの夏童話』という作品の特徴は、作者が作中世界のルールを設定し、それに従って登場人物たちが行動するという点と、インターネットのなかでのコミュニティが現実社会と交わるなかで事件を作っていくという点である。その特徴を『偽りの夏童話』はミステリとして活かし切っていたのだ。

それに対し、それに類する特徴を備えながら、惜しいところで活かしきれず、ルールやコミュニティを描くという段階にとどまっていた作品がいくつかある。例えば、医療の進歩がもたらした人口の爆発に悩む近未来の日本を舞台とした真藤順丈『RANK』。あらゆるところに配備された監視カメラにより国民のなかでの順位が確定し、ある順位以下に落ちると国によって「処分」されてしまうというのが、この小説のルールである。なかなか豊かな筆力でぐいぐいと読ませてくれる、キャラクターも(いささか悪趣味なところはあるが)しっかり造形されているのだが、『偽りの夏童話』と比較すると、作者が設定した箱庭を描くだけにとどまっていたように見えてしまうのが残念である。素材(=ルール)そのものは十二分に活かしきっているので、それをさらに一つ上の点から眺め、盛りつけを考えてみてはいかがだろうか。ルールに支配されているという点では、詰草『歩—いちほ—』もそうだ。こちらは、小説と現実のシンクロニシティの実験というふれこみで、過去探究の旅に出るように導かれた男の物語である。渡された文章の通りに行動しなければならないというルールが、かつてのTV番組を彷彿とさせてしまい、そこが大きなマイナスポイントとなっている。物語そのものは、そうしたルールがもたらしかねない単調さをうまく回避しているし、そもそも恋物語としてなかなか読ませる仕上がりとなっていただけに、まずはルールそのものの本質的なオリジナリティが欲しかった(もちろん、それを俯瞰する視点もだが)。ネット関連では、泉水森志『蒼の部屋』の出来が良かった。連続警官殺しの事件に、ネットのミステリマニアの集団が挑むいう話である。この作品がよいのは、そういう出しゃばりな素人ネット探偵だけの話とせずに、そういう連中に割り込まれる警察側の視点もきっちりと盛り込んである点である。特に、はみ出し者の刑事のキャラクターが(素人たちとの対比もあって)良くできている。サスペンスもまずまず。着地(=真相)に説得力が不足していたのが惜しまれる。

その他、ミュージシャン志望の若者の青春小説として瑞々しく読ませる佐藤菁南『アヴォイドノート』と、善良な脱サラ占い師が巻き込まれる誘拐事件を描いた川野達哉『鏡像』にも好感が持てた。前者は、貧乏ながらに抱く夢と現実と殺人を描いて読み手を引きつけるし、後者は占い師のホームズ風の人格推理が愉しい。いずれもすっきりと愉しく読めたが、文章力なりプロットなりキャラクターなりがまんべんなく無難なのではなく、少なくともどこかの要素では100点を取らないと、1次通過は難しいだろう。

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