第5回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹氏コメント

『あの虹を消さぬよう』 相原 亮
『境界(ボーダー)』 三田村学
『クリティカル・イレヴン』 茶柱達蔵
『魔術城事件』 一帆 澪

古山裕樹コメント

1次通過の3作品は他を大きくリードしていたので、選定そのものは難しくありませんでした。が、読んでいて「ここがこうなってさえいれば……」と思った作品が多かったのも事実です。特にこの4作品はアイデアもよかっただけに、惜しむ気持ちも強いです。

あの虹を消さぬよう』相原 亮
高校球児の回想と、高野連への匿名の告発とが並行して語られ、やがて意外な事実が浮上する……という、ビル・S・バリンジャー風の物語。伏せられている事実がシンプルながらもきわめて意外で、最初に読んだときにはかなり驚かされました。ただし、全体の3分の2くらいで衝撃の事実が明かされ、後はその事実にまつわる物語……という構成は、ミステリーとしては改善の余地があるかと思います。真相を明かすタイミングが、あまりに早すぎないでしょうか。また、衝撃の事実につながる伏線は、もっとギリギリまで踏み込んだものにしたほうが、どんでん返しの効果もより鮮やかになるでしょう。

境界(ボーダー)』三田村学
オンラインゲームの内容と、ある中学校で立て続けに起きる自殺騒ぎとが密接に絡み合うプロットは凝っていて、事件に振り回される学校の雰囲気もよく描けていると思います。が、もったいないのは主人公を初めとする教師たち、そして生徒たちのひとりひとりの描写が希薄なところ。あの異様な動機は、犯人の人物像をもっと強い印象を残すように描いた方が活きるかと思います。探偵役の描写も控えめで、もっとこの人物を活用していれば……と、残念に思うところの多い作品でした。

クリティカル・イレヴン』茶柱達蔵
奇妙な要求をするハイジャック犯と、政府・警察の駆け引きを描いた物語。犯人の大胆な手口、そしてハイジャック機をめぐるサスペンス、さらには犯人の意外な目的と、プロットの組み立て方は素晴らしい作品でした。ただ、種々の蘊蓄をストレートに詰め込んでしまったり、人物などの描き方が「描写」というよりはむしろ「説明」のようになっていたりと、文章表現の部分ではブラッシュアップの余地があるかと思います。

魔術城事件』一帆 澪
孤島の館で怪事件! しかも見取図つき! 『このミス』大賞応募作では珍しい傾向の作品で、ワクワクしながら読みました。作中人物が繰り広げる推理の組み立ても丁寧で、細部まで配慮の行き届いた作品と感じました(図表はもっと活用してよかったと思います)。が、問題は最後の解決部分。それまでの雰囲気が持続せず、急に安っぽい陰謀史観に嵌ってしまったのが悔やまれます。また、作中人物が他の作中人物の目を欺こうとするのではなく、メタレベルの読者を欺こうとするかのように動いているのが気になりました。

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