第5回『このミス』大賞 次回作に期待 杉江松恋氏コメント

『ウイ・アーマーダラーズ!』 涼川鮎子
『NO SURPRISES PLEASE(ノー サプライゼス プリーズ)』 黒木隆志
『ウェザーキャスター』 和喰博司
『アゲラタム・ヒュプノシス〜嗜眠薊(しみんあざみ)』 西魚リツコ

杉江松恋コメント

ウイ・アー・マーダラーズ!』は発想がおもしろかっただけに残念な作品でした。設定は、古処誠二さんの某作を連想させます。だが本作の場合は事件の当事者がその記憶を引きずりながら生きていくというところに重点があり、人間ドラマに新味がある。これで犯人捜しのくだりが成功していれば傑作だったのですが、そちらの推理展開は残念ながら精巧とは言いがたいものでした。地下描写のリアリティにも難があると言わざるを得ない。そうした点がうまくいっていれば、クリスチアナ・ブランドのようなサスペンスフルな本格ミステリーになったかもしれません。

NO SURPRISES PLEASE(ノー サプライゼス プリーズ)』も同じような作品でした。連続殺人の関連性を推理するミッシングリンクものですが、解決に難があります。「犯行声明」の暗号は稚拙。しかし大胆に提示される犯人像には新味があります。中途の混乱した部分を整理して伏線を追加し、暗号部分を一新すればより魅力は増すでしょう。

ウェザーキャスター』。作者は本賞を含め各賞の最終候補に何度も残っている方ですが、本作には新人賞にふさわしい着想の冴えや、力強い物語運びは感じられませんでした。過去の因縁話から現在の事件の犯人捜しまで、手堅くまとまってはいます。作者の専門分野であろう物語の背景も、取材は行き届いています。ですが、ミステリーの華というべき謎の要素が希薄です。読者を牽引していく謎の魅力が決定的に欠けていると感じました。同じようにミステリーとしては難があるのですが、伝奇小説としてのおもしろさがあったのが『アゲラタム・ヒュプノシス〜嗜眠薊(しみんあざみ)』です。スティーヴン・キング的な舞台設定を使っていて、真相は法螺話のようなものですが、妙に魅かれるものがある。読者を驚かそうとしてさまざまな要素を詰め込みすぎたのが敗因ではないかと思います。「町が作り出た理由」か「令子の目的」、どちらかに絞って話を作ってしまってよかったのではないでしょうか。

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