第5回『このミス』大賞 1次通過作品

『野蛮人のゲーム』 坂東義剛

 スポーツ全般に関心が薄く、生まれてから一度もサッカーに興奮したことのない奴がいたとしよう。
ほんの一時でもかまわない、そいつをサッカーに熱狂させるにはどうすればいいだろう?
ひとつ、いい方法がある。この作品を読ませるのだ。

 舞台はアルゼンチン。1978年6月、この国で開催されていたサッカー・ワールドカップ大会の決勝戦前夜。ある牧場の老人が、傷だらけで瀕死の日本人を助けた。彼はなぜか、サッカーのユニフォームを身につけていた。一日が過ぎ、全国がアルゼンチンの優勝に沸くなか、男は意識を取り戻した。事情を尋ねた老人に、彼は答える。「俺を捕まえたのはアルゼンチン軍事政権だ。そして、その陸軍のチームと試合をしたんだ」と。

 男は、日本の貿易会社のブエノスアイレスにある支店に勤めていた。前政権と良好な関係を築いていた彼の会社は、クーデターによる政権転覆以降は一転して苦境に立たされていた。ついにこの国から撤退しようとしていた矢先、彼は理不尽きわまりないいきさつで軍に逮捕されてしまう。逮捕を指示した大佐は、彼が学生時代にサッカー選手だったことを知ると、身代金を巻き上げた上で強制収容所に送り込んだ。囚人はみんなサッカー選手ばかりの、奇妙な収容所に……。

 アルゼンチン軍事政権による一般市民への暴力的な弾圧は、外国からは「汚い戦争」と呼ばれた。そんな時代を背景に、監獄サスペンスとスポーツものとを融合させて描いたのがこの小説である。物語の中心をなすのは、きわめて特異なシチュエーションで繰り広げられるサッカーの試合だ。その脇を固めるのは、収容所にもう一人いた日本人選手と大佐との過去のつながりと、軍事政権内部の謀略である(なんと、軍人たちの謀略もサッカーを軸に動いているのだ!)。清々しさと驚きの重なり合うクライマックスまで、一気に読ませる作品だ。

 ちなみに、私自身も「サッカーに興奮したことのない奴」に当てはまる。サッカーに無関心な人間をサッカーに熱狂させる──それを成し遂げてしまう物語の力を体験した者として、この作品を強く推す次第。

(古山裕樹)

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