第3回『このミス』大賞 2次選考結果 茶木則雄氏コメント

予測不能の大混戦

 1次選考委員の諸氏に、まずは謝意を表したい。次の俎上にのぼった候補作の総体的なレベルの高さは、前回、前々回を凌ぎ、過去最高のものだった。これだけ粒が揃うと、苦汁の決断を迫られ、泣く泣く落とした作品もあったかと思う。1次の苦労が偲ばれる水準の高さだ。

 が、その責任は十二分にまっとうしていただけたと言える。粒揃いという意味では、今回は間違いなく、『このミス』大賞史上最強のラインナップである。

 それにしても、よくぞこれだけバラエティに富んだ作品が集まったものだ。野球ミステリあり、ユーモア・ミステリあり、フランス・ミステリ風のサスペンスあれば、ノワールもあるし、なんと自然災害ミステリもある。はては時代活劇やSF医学ミステリまであった。割り当てられた応募作の中から最も優れた作品を選んだ結果で偶然の産物とはいえ、その後の選考に携わる者としては天の配剤に感謝すべきだろう。

 これだけジャンルが多岐にわたると、読んでいてもまったく飽きがこない。ほとんどの作品が仕事を離れて愉しく読めたことを告白しておく。ただ、そんななかにあって、個人的にどうしても馴染めなかった作品がある。1次で担当者がその才能を高く評価した『ハッピープレイス』だ。ユーモアのツボは人それぞれあろうかと思う。私のツボとはいささか異なるが、(万人向けかどうかはともかく)この作品に腹を抱える読者がいても不思議ではない。なるほど電車の中での乱闘シーンは、そのばかばかしさに思わず鼻から息が漏れたほどだ。しかし、文章の完成度と全体の冗長さは如何ともし難い。今後化ける可能性は否定しないが、現時点ではごくごく一部の好事家の琴線に触れる程度だろう。

 如何ともし難い欠点を抱えているという意味では、時代冒険ミステリの『一六〇X』も同様である。アイデアは面白い。個々のそれは斬新なものではないが、様々なアイテムを組み合わせるそのバリエーションの豊富さには魅力を感じた。伏線も使い方にも見るべきところはある。しかし、時代小説として最低限押さえるべき常識を、あまりに逸脱し過ぎている。時代設定を考えればありえない現代語が会話の随所に散見されるたびに、せっかく盛り上がった気分が萎え、腰が砕けそうになるのだった。もっともこれは直して直らない欠点ではない。如何ともし難いのは、登場人物の行動原理に説得力を構築できていない点だ。意外性を重視するあまり、プロットを軽視しているのである。プロットとはすなわち必然の積み重ねである。いかに突飛な行動・心理がそこにあっても、それを読者に納得させる文章力がなければ、その作品は単なる絵空事に過ぎない。小説は所詮、絵空事かもしれないが、われわれが読みたいのは、少なくとも私が読みたいのは、良く出来た絵空事だ。

 最終候補の選に漏れたなかで最も惜しまれるのは『白い荒野』である。この作品には、すでに言及した2作のような如何ともし難い欠点はない。豪雪に閉ざされた東京で起こる数々の人間ドラマは、その斬新な舞台設定と相俟って作中に確固たるリーダビリティを構築し得ている。ページを繰らせる力は新人ながら相当なものだ。現金強奪シーンに端を発する予測不能の犯罪劇は、スコット・スミス『シンプル・プラン』を彷彿とさせ、自分の中での期待値が一挙に跳ね上がったものである。後半の大仕掛けもいい意味で予測を裏切って読ませる。臭みの強い恋愛ドラマに目を瞑れば、また文章の完成度に目を瞑れば、最終候補に挙げて挙げられなくはない。

 しかしこれを叩くとなると、大変な作業になるのは事実だ。残った5作と比べてその差は、かなりの開きがあると言わざるを得ない。

 最終候補の5作については、ここでのコメントは差し控えたい。推す作品の強弱は確かにある。が、はっきり言って今年は横一線だ。それぞれに欠点はあるし、それぞれに磨けば必ずや光る原石の煌きが認められる。ただタイプが異なるだけに、横の比較は極めて難しい。議論百出することは間違いないと思う。おそらく読み手としての真贋が問われる選考になるはずだ。したがって今から、手の内を明かすわけにはいかないのである。

 今年は例年以上に、心して臨みたい。

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