第3回『このミス』大賞 1次選考 次回作に期待

『ブラック・ベルト』 海野一輪
『檻の兎』 碓氷夏巳
『渋谷少年第7小隊』 田中宏昌
『氷の不死鳥』 天野節子
『Xの仮面、Yの仮面』 門前健洋
『誰がアンドロイドを殺したか』 島村ジョージ

村上貴コメント

今回は激戦であり、泣く泣く落とした作品が例年以上に多い。

まず、本格的な格闘小説である海野一輪『ブラック・ベルト』。筆力もリアリティも十分予選を通過するレベルにあり、選者という立場を忘 れて夢中になって読まされた。ストーリーにもう一ひねりあれば、文句なく推していただろう。碓氷夏巳『檻の兎』も非常に僅差で落とさざるを 得なかった作品。ある大仕掛けなトリックを青春小説に絡めた小説で、その構造が新鮮である。しかも、キャラクターもしっかりしている。全体として十分及第 点なのだが、仕掛けに依存するもどかしさが所々で表面ににじんでしまっているのがキズといえばキズか。あとホンの少しだけ磨いて欲しかった。

それらに続く高評価が、次の四作品。『バトル・ロワイアル』に通ずる設定で少年少女を描いた田中宏昌『渋谷少年第7小隊』は、設定の類 似性が欠点だが、その世界での人物描写は抜群によい。著者独自の舞台を設定した作品も読みたいと感じた。天野節子『氷の不死鳥』は、不倫殺 人というよくあるミステリかと思いきや、それをさらに一ひねりしていて好感度は高い。ただし、ラストにおける中心人物の行動の説得力に難あり。門前 健洋『Xの仮面、Yの仮面』は、ネカマと性同一性障害を扱った純愛小説。ミステリ的には薄味だが、その点は、展開と筆力で「恋のドキドキ感」を見 事に表現しており、まあ許せる。だが、結末については、曖昧にするのではなく、著者なりの判断を示して欲しかった。島村ジョージ『誰がアンドロイド を殺したか』は、実力派の作者が新たな表現手法を試みた作品。謎の漫画家の正体をインタヴューや雑誌記事などという媒体をコラージュしながら次第 に描き出していくというアプローチは成功しており、十分愉しく読めた。ただし、とってつけたような殺人事件と、重要人物の一人のモデルが透けて見えるのが 難点。しかしながら、この人は毎回進歩を続けている書き手であり、また次の作品を読みたいと心底思う。その他、昌田幸子『腐敗網パリ』、凪沢章 『ハートブレーカー』も力作として記憶に残った。

なお、今回はこれら以上の手応えを残しつつ、二重投稿の禁止という規定に違反したため落とさざるを得なかった作品も複数存在した。作品からは著者の力 量がまざまざと伝わってきただけに、新たな作品での応募でなかったことが残念で仕方がない。

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