第3回『このミス』大賞 1次選考 次回作に期待

『鉄砲弥八夢物語』 飯島一次
『彼女はうたう、春の森に』 ハタユウスケ
『バージェス!』 あせごのまん
『自戒する機械』 巻玉敬一

古山裕樹コメント

第1回、第2回に比べると、今回は1次通過作品を絞り込むのに苦労した。最後まで迷ったのがこの二作。

飯島一次『鉄砲弥八夢物語』……前回、1次選考通過作品を書かれた方の新作。前回とは方向を大きく変えて、ホラーでの挑戦である。市井の 捕物名人や、蘭学を学んだ医師など、複数の人物がそれぞれに奇怪な事件に遭遇し、終盤で一点に収束する。序盤の盛り上げ方はなかなかのもので、高野長英を 筆頭に、歴史上の人物を虚構に取り込む手際も巧み。だが、広げた大風呂敷を畳む過程で失速したのが残念。おぼろげに描かれる超自然的存在があまりに強力 で、「夢オチ」に近いように感じた。とはいえ、1次選考通過の二作とは本当に紙一重の差。ぜひ、もう一度挑戦していただければと願わずにいられない。

ハタユウスケ『彼女はうたう、春の森に』……題名を含め、全体に独特の雰囲気を漂わせた作品。観念的・抽象的な描写が多く、序盤は読みづ らかったものの、これは作品の魅力と不可分のものだろう。また、きわめて抽象的な部分については、「夢の中の擬人化された狐」などの表象を用いて、読みや すくする工夫がなされているのも好感が持てた。ただ、内面に比べ外面の描写が薄いせいか、終盤に浮かび上がる伝奇小説風のモチーフが活きていなかったのが 惜しまれる。
上記の二作が紙一重。それにはもう一歩及ばなかったものの、忘れがたい印象を残したのが以下の作品だ。

あせごのまん『バージェス!』……UMA、洞窟探検、古生物。舞台装置を見ただけで推したくなった、地底への愛があふれる作品である。洞 窟探検どころじゃない大事件がおきるのに、それでもメインは洞窟探検という割り切りぶりに男気を感じた(それがいいかどうかは別だが)。ただし驚異の源泉 を、カンブリア紀の生物の異様な形態に頼り過ぎてしまったのがあまりに惜しい。「出てくるだけ」ではない活躍を読みたかった。また、三億円事件まで絡めて しまうのは詰め込み過ぎで、唐突という印象をぬぐえない

巻玉敬一『自閉する機械』……ディーン・クーンツばりの陰謀劇で、二転三転する先の読めない展開が素晴らしい。物語を破綻させかねないく らいに強い力を備えている「機械」についても、巧みに制限を設けて、興ざめになるのを回避している。ただし、一人一人の登場人物の印象が希薄なのが残念。 登場人物がみんな、筋書きに引っ張られて動いているように見えてしまうのだ。ある人物が、実は見かけとは全く違う立場に立っていた……というどんでん返し が何度もあるけれど、人物像の薄さが驚きを弱めている。

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