第3回『このミス』大賞 1次選考 次回作に期待

『七狼抄』 青柳渓花
『青い影の子猫』 北島大也
『光守の闇夜』 櫻田悠樹

膳所善造コメント

青柳渓花『七狼抄』――まとまりの良い作品です。文章、人物造詣、プロットの展開とまずは及第点。ただし裏を返せば、新味がないともい えます。特殊な力を持つ一族の子孫が、あることをきっかけに結集し、主人公の少年を中心に悪の組織と対峙する、という物語は、定番中の定番であり、小説・ 漫画・映画とあらゆる形で消費されてきました。よほどのことがない限り、新人賞としては予選通過は難しいと思います。小説家としての基礎体力はあると思う ので、次回はぜひ、新鮮な作品を読ませて欲しいと思います。

北島大也『青い影の子猫』――”学校の怪談”というのも、手垢が付いたネタですが、この作者の場合、二人の男子生徒と女生徒という主人 公トリオの設定に一工夫あるのと、現在、十年前、二十五年前と、物語を三段構えの構造にした点に工夫が見られました。青春小説としても、ミステリとしても そこそこ面白いのですが、中学生たちの捜査が、あまりに都合良く進んでいく――例えば、事件関係者が積極的に協力してくれる善意の人々ばかり――ところが 安易であり、あと一歩に留まりました。謎解きミステリに対するセンスが感じられる作品でしたので、次回作に期待したいと思います。

櫻田悠樹『光守の闇夜』――電力会社の社員が発電所をストップさせ、大停電を引き起こす、という設定が実に斬新で面白かったです。新人 に限らず、とかく取材したことはすべて書きたくなるものですが、小説にとって必要十分な情報を消化して、提示するやり方も好感が持てます。ただし、ネタの 面白さに対して、それを支える会社組織内部の書き込みが、「テレビドラマの社内抗争」に留まっているために、足腰の弱さが感じられます。男同士の恋愛感情 というネタも含めて、厳しい言い方ですが高村薫の二番煎じの感は拭えません。視点のぶれが酷いのも大きなマイナス要因です。少なくとも、一つの段落は、一 人の視点に固定して描くべきで、それだけで格段に小説としての緊密度、求心力がアップするはずです。
上三作が、1次選考突破まであと一歩のレベルにある作品です。では、あと一歩にも至らなかった作品は、どこがいけなかったのか。以下、総論的にその原 因を挙げてみます。
・「これまでの経歴に寄りかかりすぎている」:これは、特に五、六十代の方の作品に多いのですが、これまでのご自身の社会人としての経験にべったりしすぎ た作品が実に多いです。毎年、半分くらいはこうした作品がきます。確かに、特殊かつ新鮮な世界を垣間見させてくれるのですが、残念ながら、その世界の説明 に終始して、小説として体をなしていないものがほとんどです。ネタはあくまでもネタです。新鮮な素材なら生でも美味しいという論法は、小説には当てはまり ません。
・「作者の顔が見えてこない」:どこかで読んだような作品も多く来ます。読書こそが、優れた小説家になるための一番の近道であり、本から多くのことを吸収 することは大切ですが、それに自分なりの”声”を加えなくては、新しく描く必然性はありません。厳しい言い方ですが、劣化コピーに市場価値はありません。
・「会話にもっと工夫を」:会話は小説の重要な要素です。安易に状況説明をする道具に使うべきではありません。声に出して読んで、不自然さやぎこちなさを 感じる会話は、練り直す必要があります。説明会話だけで、地の文にほとんど筆を割かない作品も結構あります。会話だけで小説を成り立たせるというのは、実 に高等な技術であり、よほど力量がない限り、まずは粗悪な脚本にしかなりません。
次回以降、これらの欠点をクリアした応募作品が増えて欲しいと思います。

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