第3回『このミス』大賞 1次選考 次回作に期待

『楽園のDoor―絶海の孤島殺人事件(仮)』 伴ケンジ
『スティール』 金沢未来
『巨大地震』 和喰博司
『今日の俺が終わるまで』 浦秀樹

杉江松恋コメント

今回は全体のレベルが高く、涙を呑んで落選とせざるを得ない作品が多かった。以下に、それらの作品の評を記載します。今後の執筆活動の参考にしていた だければ幸いです。

『楽園のDoor――絶海の孤島殺人事件(仮)』日本列島が沈没し、生き残りの数人が集まった孤島でなぜか殺人事件が起きるという設定 がいい。三津田信三『シェルター終末の殺人』に似ていますが、どこかにのほほんとした感じが漂っていて独自の持ち味になっていました。最後の謎解きで犯人 の正体に関する重大な事実が明かされるのですが、それに関する伏線がまったく無かったのが痛かった。伏線の無いどんでん返しは、どうしても羊頭狗肉のそし りを免れないのです。凶器トリックなど光る部分も多かっただけに残念。

『スティール』一言で言えば、内部の人間による銀行強盗を描いた小説なのですが、動機を持つ人間を複数準備して、その絡み合いで犯行の 行方がどうなるかわからなくした点が秀逸。これも結末のどんでん返しに結びつく伏線が無いという欠点があり、かつ「知っていること・調べたこと」と「知ら ないこと・調べなかったこと」が、描写の厚みでまったく違っていて透けて見えてしまった点が目立ちました。犯行手段も偶然に頼りすぎかな。

『巨大地震』取材力・描写力とも図抜けていたと感じました。大地震のパニック小説です。作者の専門領域だけに、細部のディテールもしっ かりしていました。不思議なのは、これだけ厚みのある描写ができる方なのに、なぜ人間ドラマの部分が淡白なのかということ。登場人物たちは、人生のクライ マックスまで、それぞれに生の苦しみ悲しみを味わってきたはずです。そこが淡白であるため、どうしても結末のインパクトが弱くなってしまう。読者にしてみ れば他人事なんです。長篇小説としては大きな障害です。

『今日の俺が終わるまで』ウェルニッケ脳症のため一日ごとに記憶を失う主人公が、「明日の自分」に向けたノートをつけ、それを頼りに日 々捜査を行うという設定が素晴らしいですね。いきおい物語は反復の連続になるはずなのですが、省略法をうまく利用して煩雑になることを避けている。残念な のは、そこまでしておきながら肝心の犯罪内容については雑な整理しかされていない点です。たくさん人が死にます。でもそこまで大がかりな犯罪なのに病気の 主人公が追及するまで露見しなかったわけです。その部分のリアリティを出すためには、主人公がもっと大きな存在に挑む課程か、予想もしなかった犯罪プラン の設定が必要だったはず。そこをおざなりにした結果、やや月並みな物語になってしまいました。 以上、ささやかながら講評致しました。今後のご健闘を祈念申し上げます。

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