第3回『このミス』大賞 1次通過作品

『白い荒野』 関根浩平

 とてつもない豪雪に東京が襲われるという小説である。そして、交通はもとより、電気、ガス、電話などが麻痺した環境に、複数の人間ドラマを織り込んだ小説でもある。その複数の人間ドラマとは、例えば恋愛劇であり、犯罪劇であり、あるいは謀略劇であったりする。さらに、そうしたドラマのそれぞれが、雪の立川において幾重にも重なり合う……というこの『白い荒野』。構造は複雑だが、小説全体としては見事にサスペンスを醸し出しており、その構築力をまず高く評価したい。
 
 構築力ばかりではなく、新鮮さも抜群だ。天災+複数の人間ドラマ+殺人事件+マンションという要素からは、若竹七海の『火天風神』が想起されるが、その若竹作品に心酔しており、さらに、デズモンド・バグリイやマックス・マーロウの自然災害小説を愛する選者にも、この作品は新鮮な愉しみを与えてくれた。その新鮮さを生じさせたものが何であるかは、ミステリとしての愉しみを削ぐことになるのでここに記すことはできないが、例えば、結末付近で主人公を窮地に陥らせる「あれ」がそれであった。「あれ」を、ここに持ってくるか、という類の新鮮さなのである。

 しかも、だ。ますます何も書けなくなるのだが、実はこの小説、トリッキィでもあるのだ。あの仕掛けにはすっかり騙された。

 というわけで、曖昧な指示代名詞ばかりで申し訳ないが、スピード感(大雪に閉ざされた世界でありながら!)、人物造形(類型的な部分は若干あるが)、プロット(お見事)のいずれも及第点をはるかに超えていることは断言できる。東京に豪雪の降る理由もそれなりにきちんと説明してある点を含め、「あれ」も「それ」も「これ」も満足させてくれるエンターテインメントの大収穫だ。

(村上貴史)

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