第3回『このミス』大賞 1次通過作品

『パウロの後継』 深野カイム

 白昼の都心。十四歳のスナイパーが放った銃弾が標的を貫き、暴力団の銃撃戦が始まる。 少年が人を殺す――現代の日本では、十分に衝撃的なできごとだ。
 
 だが、それが日常と化してしまった社会が存在する。アフリカ西部の国・リベリア。十四年にも及ぶ内戦が続くこの地では、十歳にも満たない子供ですら、兵士として銃を手にしている。……そんな過酷な現実を抱えた国に生じた火種が、日本国内で炸裂するのがこの物語だ。

 登場するのは、人生のどこかでリベリアの内戦と係わりを持った者たちだ。孤児としてリベリア人に育てられ、若くして狙撃兵となった日本人の少年。戦場と化した母国から、必死の思いで脱出した女性。海外援助の利権を漁る政治家のもとで、秘書を務めていた男。幼いころにさらわれて、自分の本当の生い立ちも知らずに育った少女。……そんな登場人物の希望と策謀が絡み合いながら、物語はクライマックスの一点へと収斂してゆく。

 主軸となるのは、生き別れのまま育った兄と妹の「血」をめぐる悲劇だ。この作品、実はなんとも古風な筋書きなのである。だが、決して大仰で暑苦しいドラマにはなっていない(そっちのほうがよかった、って人も少なくないんだろうけど)。兄と妹以外の登場人物も、それぞれの意志を持って動き、それぞれに印象深いエピソードが与えられているからだ。脇役はいない。一人一人が、自身の物語の主人公なのだ。特に、誘惑に敗れて零落した議員秘書のエピソードは、典型的なノワールの登場人物を思わせて心に残る。

 さまざまな人物の思惑が交錯する入り組んだ物語だが、作者の手綱さばきに乱れはない。非日常の極みのような冒頭から、意外な事実が明かされた後のラストまで、一息に読ませる力作だ。

(古山裕樹)

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