第3回『このミス』大賞 1次通過作品

『血液魚雷』 町井登志夫

 重態患者を救うべく、ナノ・テクノロジーを駆使して人体内部に入り込み、血管内を患部へと潜航し、オペを行う。そう、言わずと知れた名作「ミクロの決死圏」のメイン・アイディアである。このSFサスペンスの傑作に挑戦し、見事成功した作品、それが『血液魚雷』だ。

 この作品の最大の魅力は、なんといっても血管内部を潜航する最新鋭機器にある。その名も”アシモフ”(遊んでますね、この作者)。すごいぞ、このメカは。どこが凄いかというと、「ミクロの決死圏」が、物質を縮小し実際に人体内に潜入したのに対して、なんと、この作品では”医者は患者の内部には入らない”のだ。血管内に挿入する極細カテーテルの先端に装備されたセンサーが情報を解析、カテーテルを操る医師が座るコックピット型モニターに、それを投影することで、血管内部を潜航しているのと同じ状態を造り出すのである。ヴァーチャルリアリティーとナノ・テクが産んだ驚異のマシンなのだ。

 物語は、二十六歳の女性・緑が、心筋梗塞で運び込まれるシーンから幕を開ける。幸い一命は取り留めたものの、彼女の血管内を猛烈なスピードで移動する物体が発見される。一体、これはなんなのか。放射線科の医師・祥子は、最近導入された最新鋭機器”アシモフ”を操縦して、緑の体内を捜索、なんとか写真に収めることに成功する。コンピュータ解析の結果、姿を現したのは、とんでもないしろものだった。

 未知の物体の正体は? 進入経路は? 対抗手段は? 人体内部という極めて限定された空間を舞台に繰り広げられる、手に汗握る探索、追跡そして戦闘。医師である祥子が、患者である緑の夫・羽根田と、かつて恋愛関係にあったという設定が、物語の緊迫度をさらに高め、冒頭からラストまで一気呵成に読ませるノンストップ・タイムリミット・サスペンス。SF、冒険小説、謎解きの魅力がハイブリッドされた、ジャンルを越えた極上のエンターテインメントがここに誕生した。

 ちなみに作者は、第2回小松左京賞受賞者。とはいえ今回の1次選考通過が、純粋にこの作品の力によるものであることは言うまでもない。

(膳所善造)

通過作品一覧に戻る
作品を立ち読み