第3回『このミス』大賞 1次通過作品

『果てなき渇きに眼を覚まし』 古川敦史

 決して万人に薦められる優等生的な傑作ではない。悪意とエゴをむき出しにする登場人物に嫌悪感を催し、途中で投げ出してしまう人も少なくないだろう。安易な共感を拒むかのようなラストに、読後、憮然とする人もいるだろう。正直、好みのタイプと言うには、憚りがある。にもかかわらず、憑かれたように一気に読み切ってしまった。この作者は、語るべきものを持ち、それを小説として昇華し、全力で投げつけてきた。

 物語は、とある八月の日の午前二時過ぎ、雨が吹き殴る中、通報により駆けつけたパトロール中の警備員・藤島が、コンビニエンエス・ストアで三体の惨殺死体を発見するシーンで幕を開ける。一週間後、藤島のもとに別れた妻から電話が。それは、二日前から家に帰ってこない、高校生になる娘の加奈子を捜して欲しいというものだった。加奈子の部屋から大量の覚醒剤を発見した彼女は、元刑事の藤島に独力で捜査して欲しいとすがる。加奈子は一体どうなってしまったのか。失踪した娘を見つけだすことで、家庭を再生し、人生をやりなおそうとする藤島は、憑かれたように加奈子の捜索にのめり込む。その情念は、過剰であり、読んでいるうちにどうにも尻のあたりがもぞもぞとしてくる。

 これと平行して語られるのが、陰湿な虐めに会う中学生・”僕”の物語だ。この”僕”の目を通して語られる中学時代の加奈子と、藤島が捜索を通じて知ることになる高校生の加奈子とが交わるとき、物語はクライマックスを迎える。

 真の主役である加奈子の内面を一切描写せず、父親と同級生の目を通じて浮き彫りにしていく手際は、新人とは思えないほど巧い。さらに、端役に至るまでしっかりと書き込まれた人物、微熱を帯びた文体、予定調和を良しとしないストーリー展開も大きな魅力だ。無論、短所もある。特にラストの処理は、やや唐突すぎる。だが、無難にまとまった作品からは決して得られない、忘れがたい読後感が残ることは間違いない。こういうSomethingを持った作品をこそ、推したい。

(膳所善造)

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