第2回『このミス』大賞 1次通過作品

『月虹騎士団秘録 ランスイル城奇譚』 尾関修一

 いわゆる超能力者が異世界を舞台に探偵役として活躍する小説である――と書くと、それだけで敬遠される方があるかも知れない。年齢不詳の美貌の名探偵レイン・ボウ=ブラックモア卿が十七歳の超能力少女を相棒にして……などというと、更に敬遠してしまう方が増えるかも知れない(レインの名前はどうにかならなかったか、とは私も思うが)。

 しかしまあ、これがこの作品の世界なのである。そして、この筆者はこうした世界を構築する筆力と技量を持っているのだ。この世界の歴史や文化などをきちんと自分のなかで消化し、それを作品のなかで読者に伝えている。その点をまず素直に評価したい。そして、その世界の造型が、この作品をミステリとして成立させるうえで必要な不可欠なものとなっている点を、なにより評価したい。

 ミステリとして不可欠というのは、動機やトリックといったスポット的な意味でもそうだし、どんでん返しといったミステリ的醍醐味の意味でもそうである。下手なサブジャンルミステリ――例えばトラベルミステリやリーガルサスペンスなど――が、そのサブジャンル固有の要素をミステリとして活かしきっていないのに対し、この小説は、異境の文化や感応力などの道具がミステリと密に融合した一作となっているのである。

 さて、名探偵が挑むのは、同じ学舎で学ぶ美少女四人が四週続けて、同じ曜日の同じ時間に失踪したという『妖精の仔盗り事件』である。その背景には、どうやら一人の少年が、五年前、六人の少女を凌辱して殺害した事件があるらしい。彼は、ランスイル城の『監獄塔』に閉じこめられているのだが……。

 物語が進むにつれ盛り上がりが増す作品だけに、イントロだけをまず読者に開示する今回の選考方法ではやや不利な面もあるが、その序盤だけでも著者の力量の一端は判るはず。是非ご賞味を。

(村上貴史)

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