第2回『このミス』大賞 1次通過作品
『葡萄酒の赤は血のかほり』 浜田浩臣
軸となる二人の主人公がしっかりと確立された、痛快な冒険小説であり謀略小説。いささか大時代的ではあるが、読む者の心を必ずやワクワクさせてくれるであろう一冊である。
日本がロシアと戦争をしていた明治三十八年のこと。中国は奉天郊外の野営地に、諜報部隊の特別任務班に属するという男がやってきた。自らの活動については、大本営参謀本部以外に告げることは出来ないとして口を噤(つぐ)んでいた彼は、五日後、頭を撃ち抜いて死亡した。現場は密室状況であり、自殺とみなす意見が強かったが、それに不信感を憶える者もいた。取材のために現地入りしていた城東日々新聞政治部の青年記者、岩嵜眞一郎である。彼は、死体の傍らにあった謎の紙片も入手し、疑惑の解明に乗り出す。同じ頃、日本では、眞一郎の年下の又従妹、黒田環が、幸徳秋水たちの結成した平民社に潜入取材を試みていた。彼女の調査は、やがて眞一郎の巻き込まれた事件と結びつき、そしてとてつもない大陰謀が掘り起こされていくことに……。
主人公二人の――特に、これぞお転婆と呼ぶべき黒田環の――行動が大胆不敵でよい。そして、二人の活動によって、日露のみならず他の大国を含めたパワーバランスが掻き乱され、物語が大きなうねりを伴って広がっていく様が、実に心地よい。こうした大らかで伸びやかな小説というのは、やたらと心の闇ばかりが強調されたり、あるいは最新情報がやたらとてんこ盛りされていたりするミステリが増えつつあるなか、読書の愉しみを原点に立ち返って再認識させてくれる存在として、実に貴重である。
そうした作風を醸し出すのに一役買っているのが、明治後期という時代設定であり、また、中国という舞台設定である。これらの設定と人物造形の相乗効果たるや絶大。そこに二人の主人公という利点を活かした効果的な場面転換とスピーディーなストーリー展開が加わっているのである。せちがらい現世を忘れさせてくれること必至の一冊だ。ご堪能あれ。
(村上貴史)














