第2回『このミス』大賞 1次通過作品
『愛は銃弾』 島村ジョージ
題名こそボストン・テランの『神は銃弾』を思わせるが、もちろん別物だ。漢字一字の違いは大きい。この作品に描かれるのは、世界を律する規範としての「神」などではない。人それぞれの心を駆り立てる「愛」だ。いびつな愛、あるいは傷ついた愛。それらが引き起こした悲劇を語るのが、この物語だ。
漫画家になることを夢見ていた中学生の黒崎が出会ったのは、学校に通うこともままならない病弱な少女。黒崎は彼女にとって貴重な友人となる。彼の描く漫画を気に入ってくれた彼女に、黒崎はほのかな恋心を抱く。だが、幸福な日々は長続きしなかった……悲惨な事件が起きたせいで。それから三十年。事件をきっかけに進路を変え、刑事となった黒崎は、あるホームレスの死に遭遇する。事件の関係者だったその男の死は、黒崎にとって特別な意味をもっていた。男が残した言葉が黒崎の心に引っかかる。果たして三十年前の事件の真相は、本当に明らかにされたのだろうか? 刑事としての日常の合間に、黒崎は過ぎ去った日々を掘り返す。それが悲劇の歯車を回してしまうことに気づかずに……。
本作は、過去の事件を追うだけの物語ではない。漫画家志望の少年が無骨な刑事へと変わってゆく過程、そして黒崎の刑事としての日常が、どれも同じ重みをもって描かれる。それらが互いに響きあうことで、ひとつの物語が奏でられるのだ。
決してスマートなつくりの作品ではない。情動を前面に押し出した文章に、暑苦しさを感じる人もいるかもしれない。だが、いくつもの悲劇を見届けてきた黒崎の心情を伝えるには、この荒削りなスタイルがふさわしいように思えてならない。
ちなみに、作者は第1回でも最終候補に残った力量の持ち主。もちろん、今回の1次選考通過は、この作品自体の力によるものであることは言うまでもない。
(古山裕樹)














