第2回『このミス』大賞 1次通過作品
『エンジェル誕生』 倉木麻
「……千晴は……残しておけないの。一緒に連れて行く。天使……天使を、産んだの」。 年の瀬も押し詰まった、ある寒い日の深夜に、突如かかってきた姉・苑子からの電話。娘の千晴を連れてスキー旅行に出かけている姉の身に、一体何がおきたのか。
思い詰めた声の調子から、姉が千晴を道連れに死のうとしていると確信した典子は、同僚の雨宮の助けを借りて、一路、東北のスキー場へ。そこで待っていたのは、とても四十代とは思えないほど干からび痩せ細った姉の遺体と、それとは対称にしもやけ一つない姪・千晴の元気な姿だった。ノイローゼによる無理心中未遂と断定する警察。だが姉からの最後のメッセージと千晴の様子に、かすかな疑惑を覚えた典子は、独自に調査を始めるが……。
巧い。ジャーナリストにしてシングルマザーだった姉の、死にぎわの台詞に秘められた謎を、医学生物学研究所の研究員である妹が解き明かそうと奔走する、という構成はシンプルだが骨太で、読む者をぐいぐいと引っ張っていく。それを可能としているのが、厚みのある人物造形と、無駄のない描写、そして潤いのあるしっかりとした文章だ。長篇新人賞の応募作というと、とかくあれもこれもと詰め込みすぎた散漫で冗長な作品が多いもの。ところがこの作品には、そうした贅肉がまったくない、それでいてつくべき筋肉はしっかりとある、いわば理想的なプロポーションのエンターテインメントなのだ。プロの作家でもなかなか、こうはいかない。
果たして「天使」とは何か? ラストで鳴り響くのは、人類に対する福音か、それとも終末を告げる喇叭(らっぱ)か? 苑子がチェルノブイリ原発を取材するプロローグから、荘厳なエピローグまで、一気呵成に読ませる、近未来サスペンスの傑作がここに誕生した。
(膳所善造)














