第2回『このミス』大賞 2次選考結果 茶木則雄氏コメント

野の遺賢、今年も見参!

 第1回『このミステリーがすごい!』大賞は僥倖(ぎょうこう)に恵まれた、と言わざるを得ない。応募期間が実質、半年余りだったにもかかわらず、また周知徹底が充分と言い難い状況にあったにもかかわらず、大賞金賞受賞作『四日間の奇蹟』の浅倉卓弥氏、銀賞受賞作『逃亡作法』の東山彰良氏、優秀賞『沈むさかな』の式田ティエン氏と、才能煌めく新人を3人も輩出することが出来た。最終候補に残った“隠し玉”の上甲宣之氏『そのケータイはXXで』を含めると、この賞からすでに4人の作家が巣立ったことになる。

 出来過ぎ――と言っていいだろう。

 正直に告白すれば、今回の1次通過作品を読むにあたって、少なからぬ不安があった。野に遺賢ありとは言え、毎年そうそう巷に才能が転がっている訳ではない。まして新設間もないこの賞に、仮にいたとして野の遺賢が、まみえる保証はまるでない。何しろ去年が出来過ぎなのである。刈り取り過ぎた分、もしかしたら今年は、収穫がないのではないか。大賞はおろか、優秀賞クラスすら残ってないのではないか、という一抹の不安があったのは事実だ。

 しかしその不安は、まったくの杞憂に終わった。

 疑心を吹き飛ばしてくれたのは、柳原慧『夜の河にすべてを流せ』である。誘拐ミステリーに新機軸を打ち立て、斬新な着想を第一級の作品として結実させた実力は、文句のつけようがない。筆力、人物造形、プロット――そのいずれもが、新人の域を遙に凌駕している。まさに、野の遺賢、今年も見参! である。

 評価が分かれたのは島村ジョージ『愛は銃弾』とハセノバクシンオー『ビッグボーナス』だ。その是非および評価は、本選考会の席で心置きなく披瀝(ひれき)したい。 横山仁『昭和に滅びし神話』と浜田浩臣『葡萄酒の赤は血のかほり』の2作が最終候補に選ばれた経緯については、他の2次選考委員が指摘している通りである。これも詳しい選評は、本選考会の席上で明らかにしたいと思う。

 選に洩れた応募作のうち、個人的に惜しまれるのは和喰博司『迷走台風』と飯嶋一次『鉄砲弥八捕物風呂敷』だ。前者は、自らの経験と知識を生かした気象全般のディテールが実に読ませるものの、ダイイング・メッセージに代表されるミステリー的仕掛けとリアリティに下支えされたハードボイルド・タッチの物語世界が、上手く溶け合っていない憾(うら)みが残った。文章にも青臭さが散見され、本格的興趣とハードボイルド的興趣の融合というその志は買うが、どちらも中途半端に終始した感は否めない。後者は、飄々とした文体と奇妙な味のユーモアに好感をもった。一篇一篇の完成度は決して低くない。が、連作短篇集として見た場合、ことにこうした長編発掘の新人賞に応募された作品として見た場合、整理不足、消化不良の指摘は免れないだろう。連作集は「長編」としての何らかの仕掛けがない限り、この賞での受賞は難しいのではないかと、個人的に思う。

 葉月堅『ウォール・シティ』は設定が面白い。前半はくいくい読ませて期待されるのだが、先に行くほど残念ながら尻つぼみになる。設定の妙に見合うだけの作家的体力を身につけた上での、捲土重来を期待したい。

 倉木麻『エンジェル誕生』は纏まりのある作品である。ノベルス新書で読まされたとしても何の不満もない。が同時に、新鮮さも感じられない作品だ。何かしら突き抜けるものがないと、単に纏まりがいいだけでは最終には残れないと思う――少なくともこの賞では。 

 尾関修一『月虹騎士団秘録 ランスイル城奇譚』は、去年も1次を通過した応募者だけに期待していたが、あらゆる面で前作を下回っていたと言わざるを得ない。一言で言って、推敲不足である。

 新人作家の真価が問われるのは第2作以降である。同様に新設された新人賞の真価が問われるのも、2回目以降だろう。その意味からも、大いなる手応えを感じさせる最終候補が揃った。

 期待していただいて、結構だ。