第2回『このミス』大賞 1次通過作品
『ビッグボーナス』 ハセノバクシンオー
まずペンネームに不快感を抱いた。「ハセノバクシンオー」って、本気か?
冒頭の一行もまた、なんじゃこりゃ、だった。「明石家さんまが好きなシチュエーション――」って、おいおい。
だが、一ページ、二ページと読み進むにつれ、そんな不快感はどこかに消え去っていた。この猥雑でチープで、そのくせ純で熱い小説に魅了されてしまっていたのである。
二年前までは、大手パチスロメーカー・タイヨーの企画開発部門に所属していた東俊哉。現在の彼は、タイヨーを退社して、トリプルセブンという小さな事務所でパチスロの攻略法を売る仕事をしている。攻略法といっても、ほとんどがガセネタである。それをパチスロ中毒者に数十万円で売りつけるという仕事だ。社員は、他の攻略情報会社から引き抜いてきたセールスマンや、悪徳商法でならした営業マンなど。それぞれが、あの手この手で客から大金をふんだくっている。タイヨーとの密かなコネもあり、そんな具合に堅調なビジネスを進めてきたトリプルセブンの周囲で、怪しい出来事が起こり始めていた。最新のタイヨーのネタが、なぜか他の攻略情報会社から売られているようなのだ。かと思えば、高額のネタを二日続けて買うという奇妙な行動をとる客もいる。いったい何が起こっているのか……。
事件が事件らしい様相を呈してくるのは、小説も半ばにさしかかってからのことなのだが、そこに至るまでも、東たちの「説得テクニック」で十分に愉しませてくれる。さらに、適度な緊張感とたっぷりのユーモアで読者を惹きつけつつ、後半ではドライな暴力も盛り込まれてくるという構成もなかなか。しかも、全体を通して語り口が心地よい。「(悪徳商法の)二束三文のダイヤでも二束三文の価値はある。ガセネタには一銭の価値もない」などという警句がふんだんに盛り込まれているのだ。いやはや、ハセノバクシンオー、たいした新人である。
(村上貴史)














