第1回『このミス』大賞 2次選考結果 村上貴史氏コメント
最終候補作以外で気になった作品は…
議論の末、六作品を最終選考に残したわけだが、当方としては、特に三つの作品に思い入れがある。そちらを先に紹介するとしよう。
島村ジョージ『熱砂に死す』は、一見すると冒険小説的な印象を受ける作品だが、骨格は恋愛小説である。しかしながら、その恋愛を支えているのは、紛れもないミステリーの魅力なのだ。十五年前にサハラに消えた兄の真意はどこにあったのか、さらに、当時の関係者たちそれぞれの「隠し事」とは一体何だったのか。異母兄の心を知ろうとして調査を始めた弟の物語である。
そうした恋愛小説およびミステリーの魅力を支えているのが、文章力であり、キャラクターの造形力である。いずれも奇抜さは狙わず、しっかりと地に足のついた仕上がりとなっている点がすばらしい。特に、思いこみの激しい主人公に対して、周囲の人物の冷静な視点で物語を引き締めるあたりのバランス感覚は見事。とはいえ、キャラクターに関しては、ヒロインが女性読者の反感を買うタイプとの指摘も2次選考会であった。そういう見方があることも否定はしないが、当方としては、反感を買うというレベルまでキャラクターが確立していることとして、むしろ著者の才能をプラスに評価しておきたい。実際、多くの支持を得ているエンターテインメント作品においても、女性読者からは「あの女性キャラクターはダメ」と言われることも少なくない。要するに、そうした欠点を補うだけの魅力を作品全体で備えているかどうかが勝負なのだ。そして、『熱砂に死す』はそれを備えているのである。
上甲宣之『そのケータイは、XXで』は、『熱砂に死す』とはまるで異なるタイプの小説だが、最後まで一気に読ませるという面では甲乙つけがたい。三部構成の小説だが、特に第一部と第二部が出色の出来。しかも、第一部と第二部がそれぞれ別のテイストを備えている点も素晴らしい。ちょいと間抜けなヒロインが怪しい温泉宿で追いつめられていくという第一部のスリル、そして、ヒロインの友人が事件の背後にある仕掛けを明かしつつ、その一方で彼女自身も追っ手から逃れなければならないという第二部のスリル(公衆便所での攻防戦が見せ場である)。この二つのスリルが、絶妙のレイアウトで作中に配置されており、読者を魅了し続けるのだ。それに対して、第三部はそれまでのまとめの役割を果たすのだが、ここがいささか小ぢんまりしてしまったのが残念である。
文体についてもふれておこう。はっきり言ってチープである。しかしながら、そのチープさが作品の内容と実に見事に一体化しているため、マイナス評価にしようがなかった。浅倉卓弥の『四日間の奇蹟』は、実に完成度の高い作品である。人物描写や情景描写などの形で丹念に積み重ねられたエピソードが中盤の衝撃へと読者を導き、そしてラストの感動へと読者を誘うのだ。《感動》などという気恥ずかしい言葉は使いたくないのだが、この作品から得られるものは、やはり感動としか呼びようのないものである。
さて、この作品の中核となるネタは、実をいうと数年前ベストセラーになり、映画化もされた有名作品と非常によく似ている。従って、ネタだけの勝負ということになれば、当然予選落ちしていただろう。だが、この作品はそのネタを活かして、登場人物たちの心を鮮やかに描ききったのである。それも、ずば抜けた演出手腕で……。ネタの活かし方という意味では、前例となった作品を凌駕している一面さえある。特に、後半でそのネタをもう一ひねりして主人公を更に揺さぶる場面があるのだが、いやはや、この展開には唸らされた。脱帽である。
残りの三本についても十分愉しく読ませていただいたが、何かしら弱く感じられる点があったのも事実。というわけで、それら三作については手短に。
香住泰『俄探偵の憂鬱な日々』は、個性や自己主張の強いライバルたちに混じっても、その穏やかさ故の存在感を失ってはいなかった。散歩の途中の鼻歌のような力の抜け具合を誇る小説でありながら、コンゲーム小説として大切なポイントはきっちり書かれている点が、この作品のパワーなのだろう。堅実さという点では図抜けた出来映えである。
ティ エン『沈むさかな』は、ダイビングシーンや二人称という叙述の意味について、他の選考委員の評価が高かった一冊。だが、ミステリーとしての本書を支えているネタが巨大組織の暗躍である点や、あるいは、着想としては新鮮味に欠ける殺人トリックが使われている点などが気になった。
東山魚良『タード・オン・ザ・ラン』は、当方お気に入りの一冊である。異様な状況設定への説得力、叙述の巧みさ、警句の冴え、キャラクターの個性など、即戦力級の素晴らしい要素を数多く備えているのだ。あえて難点をいえば、脱獄に成功してから役者が増える割に、物語がスローダウンすること。こうした欠点が直れば、大賞候補の本命ともなりうる。
これら六本の予選通過作品以外で気になったのは、碓氷夏巳『セピアの翼』である。犯人の行動の一部に最後まで納得の出来ない点は残るが、それが克服されれば良い作品に仕上がるはず。次回も期待したい。















