第1回『このミス』大賞 1次通過作品

『セピアの翼』 碓氷夏巳

 なにやら西澤保彦のミステリに似ている--という印象を、この作品を読みながら感じた。男女二人ずつの四人組の学生(西澤作品とは違ってこちらは高校生たち)、大量にビールを飲みながら繰り広げる推理合戦(未成年だというのに…)、その推理合戦の果てに、彼等四人の人間関係が密かに宿していた醜さが関係者の前にさらけだされるという展開、などの類似点が見受けられるのだ。

 だが、いくつかの理由から、私はこの「西澤風」の作品を、「西澤のコピー/カバー」ではなく、オリジナリティを備えた碓氷夏巳のミステリとみなすこととした。その理由とは、たとえば、各キャラクターの役割は西澤作品と似ているものの個々の造形は異なっていることであるとか、あるいは、結末がひたすらにポジティブであることなどである。特に結末は、上質の青春小説ならではの希望とひたむきさと切なさを兼ね備えており、本作品の大きな魅力の一つとなっている。また、文章の安定感も本作品の特徴として指摘しておきたい。

 そして、独自性があると断言したからこそ言えるのだが、実は「西澤風」のところも美味なのである。今回の推理合戦のネタは、いかにして前の席の人物が後ろに座る生徒の答案をカンニングしたか、というもの。一見小さなネタだが、これをこねくり回していくうちに、次第に大きなものが浮かび上がってくるあたりの醍醐味はなかなかである。さらに、その推理を通じて四人組やそれを取り巻く人物たちの人間関係が様々に変化していく様子が、実にダイナミックなうねりとして小説を動かしており、読者を飽きさせない。

 最終的には、謎解きと青春小説という二つの側面が不離のものであることがわかり、その意味でも「いい小説を読んだ」と素直に感じられる作品である。

(村上貴史)

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