第1回『このミス』大賞 1次通過作品

『かふぇ ど あるけにい』 尾関修一

 喫茶店『かふぇどあるけにい』に迷い込んだ小説家志望の青年が、そのカフェのマダムや店の少女たちから奇妙で奇怪な物語を聞かされるうちに、彼自身も内なる迷宮をさまよいはじめるという幻想ミステリ。太平洋戦争へと着実に歩を進めているころの日本が舞台である。

 この作品、まず文章がよい。プロローグを経て、第一章の冒頭で「それは、コーヒーが媚薬であった、最後の時代の物語……。」という一文と出会ったあたりで、読者はすでにこの作品世界に絡めとられているであろう。それほどまでに力を持った文章で、この小説は綴られているのである。その力は、同じ言葉の積み重ねや、あるいは文末の言い回しの多彩さ、あるいはダッシュの使い方などによって、文章が音楽的な響きを備え、それが、かっちりしたプロットの小説世界と調和し、共鳴することで生み出されたのであろう。

 そう、プロットもなかなかよいのである。全寮制の女子校で起こった転校生への酷い仕打ち、あるいは少女をさらうという赤マントの噂など、「かふぇどあるけにい」の少女たちが青年に語るお話の一つ一つがしっかりと起伏に富んでおり、さらに、そのお話の各ピースが、物語の結末付近で一つの大きな絵柄を築きあげていくという構造なのである。実に見事というほかはない。

 現実と幻想が入り交じった作中世界を、それにふさわしい響きを備えた文章で、己の文体に淫することなく描ききった本作品。伏線の回収の手つきに垣間見える「本格ミステリ」臭さが、作品全体の幻想味と多少乖離(かいり)しているような気がしないでもないが、これはおそらく読み手の好みの問題であろう。作品全体が持つ力は、大多数の人が認めるにちがいない。いやはや、たいした小説が登場したものである。

(古山裕樹)

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