第1回『このミス』大賞 1次通過作品

『タード・オン・ザ・ラン(TURD ON THE RUN)』 東山魚良

 クールでクレイジーなクライム・ノヴェルは好きか? えげつない方法で人の命を奪う極悪人、何を企んでるか分かりゃしねえキレイどころのおねえちゃん、口だけ達者な小悪党、幼女殺しの変態野郎……そんなヤツらが欲に駆られて、あるいは状況に押し流されて、結託と裏切りを繰り返す。

 それが『タード・オン・ザ・ラン』--駆けまわるクソ、だ。

 舞台はほんの少しだけ未来の日本。死刑制度が廃止され、「キャンプ」と呼ばれるようになった刑務所では囚人たちの自由が大幅に拡大(もちろん外に出るのは別だ)された、素晴らしき社会。だが、犯罪の犠牲者の遺族には怒りの収まらない者もいる。彼らは復讐を誓ってチームを結成し、ターゲットが収監されている「キャンプ」の襲撃をたくらむ。そのターゲットは--愛する娘を奪った連続少女暴行殺人犯・川原昇。一方、当の「キャンプ」の囚人たちは、何も知らずにいつもと同じ日常を過ごしていた。襲撃者たちに狙われている川原も、いつものようにヤクザに陵辱されていた……。

 ……と、これはまだまだ物語の序盤。舞台はあっけなく「キャンプ」を離れる。そしてすべてが夢だったのかと思わせる洒落たラストまで、クソ共が一気に駆け抜ける。

 妙な重苦しさを漂わせないところに好感が持てる作品だ。この手の犯罪小説、何かというと「妄執」だの「激情」だのといった情念系のキーワードが前面に出がちだが、こいつはいたってドライ。裏切りを「関係性の再構築」とうそぶき、祖国に対する思い入れなどどこにもなさそうな在日朝鮮人・張の姿に「恨」の文字は読み取れない。

 こいつは大した掘り出しものだ。

(古山裕樹)

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