第1回『このミス』大賞 1次通過作品

『リマインド』 高城浩一

 記憶というのは実に不思議なものだ。どんなに愉しく大切な想い出も、いつしか風化していってしまう。人はそれを嘆くけれども、もし仮に、すべてを鮮明に覚えていられたとしたら、それは地獄の日々だろう。厭な事、辛い事、悲しい事、何一つ忘れられずに、癒されぬ傷を抱えたまま生きていくのは、あまりにも辛い。そう、忘却とは自衛手段なのだ。

 本作『リマインド』は、そんな不思議な現象=「記憶」に悩み、傷つきながらも、前向きに生きていく人々を主人公に、親子の関係とは、人生における「事実」と「真実」との関係とは、といったテーマを描いたミステリである。

 とはいえ、重苦しい「問題作」などでは決してない。それどころか、さらさらと流れるような文章にのせて、登場人物たちのドラマを無駄なく物語る、小味な作品なのだ。それは、封印された記憶に悩む女子大生・友香が解放されていくさまを描くみずみずしい青春小説であり、その過程で、新たなステップへと移行していく彼女と母との関係を情感溢れる筆致で描いた親子小説であり、友香の友人・聡美の清々しい恋愛小説であり、さらに、息子を無惨に殺された事実から目を背け、十四年間、偽りの安寧に浸ってきた中年夫婦の再生小説でもある。それらを結びつけるのは、幼児殺害という凄惨な事件。だが、その静かで爽やかなラストに、読者は暖かな力を与えられた気分になるだろう。

 そんな本作に、より一層深みを与えているのが、「かごめかごめ」の調べだ。この懐かしくもちょっと不気味な童謡を耳にした友香が、自分には失われた記憶があるのではと、いぶかしむ冒頭場面は、読んでいてひやりとすると同時に、これからなにが起こるのだろうと、読む者の興味をかき立てる。この唄に対する民俗学的解釈も面白く、全体的にどこか恩田陸の諸作を彷彿させるものがある、不思議な味わいのミステリだ。

(膳所善造)

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