第1回『このミス』大賞 1次通過作品
『熱砂に死す』 島村ジョージ
この作品の魅力は、生から死へと不可逆に流れていく命の貴さを描いた点にあります。現代人は昔ほど一律の倫理観に縛られているわけではないし、なかには生きている実感のない人さえいる。そんな時代に生命の尊厳を表現するのは、なかなか難しいことです。
主人公の水島友紀彦は、二十代後半の青年です。仕事は次から次からやって来る。恋愛だって忙しい。後ろを振り返る余裕もなく、目一杯にアクセルを踏みこんで生きなければならない年頃でしょう。その彼が母の死をきっかけにブレーキを踏み、人生で失われていた過去の切片を探すことになるのです。彼には幼少のころ一度だけ会ったことがある、木田隆彦という異母兄がいました。だが残念ながら、兄はサハラ砂漠縦断という冒険行のさなかに行方不明になったらしい。友紀彦は、隆彦の養父母や知人、恋人を訪ね歩き、兄の肖像を心の中に描いていきます。その過程が実に巧妙。特に養父母たちと彼が心を通わせていくくだりでは、血のつながりの持つ意味が、いやみなく示されています。
そして後半部。本作の主題が次第にくっきりと浮き上がってきます。友紀彦が隆彦のことを知れば知るほど、兄がなぜ無謀ともいえるサハラ行を敢行したのかが謎めいてくる。本当だったら兄の胸倉をつかんで問いただしたい。しかしそれができないのは、兄が(おそらく)客死してしまっているからです。そのために生じた死者と生者の断絶、生き残った者が抱き続ける死者への想い、そういったものを克服するための行動が、友紀彦の「冒険」行といえるでしょう。冒険といっても汗臭いものではない。もちろん若いのだから恋だってします。その恋の相手がまた問題なのです。なぜかといえば、彼女もまた隆彦という存在を忘れられずにいるから。恋もまた彼にとっては冒険の一部分なのでしょう。そんな等身大の若者がする冒険がどんな目的地にたどり着くのか、ぜひ確かめてみてください。
(杉江松恋)















