第1回『このミス』大賞 1次通過作品

『媚薬』 松之宮ゆい

 短いながらもにぎやかな作品である。

 大阪は道修町に店を構える老舗・向井薬局。四〇〇年にわたってのれんを守ってきたが、ドラッグストアのチェーンに押されて店をたたむ羽目になってしまう。そこで店主の薫は、「局部に塗ればさっと立つ」という秘伝の媚薬・毒薬膏(どくがんこう)をインターネットのショッピングモールで売り出す。はじめは苦戦するものの、毒薬膏の成分を活用した新商品が大ヒット。気づいてみればITベンチャーの寵児に……。

 とまあ、絵に描いたようなサクセスストーリーが序盤から展開されるのだが、成功者がいれば妬んで足を引っ張る者が出てくるのが世の常。薫の息子が誘拐され、三億円の身代金が要求される……と、にわかに誘拐事件へと転じてゆく。

 あれよあれよと言う間に展開するストーリーは、勢いにまかせて突っ走っていながらもどこかとぼけた雰囲気を感じさせる。その雰囲気をかもし出しているのは、作者があちこちに仕掛けた「ずれ」だ。例えば「ネットで会社を興して大儲け」という、どこかで聞いたようなサクセスストーリーも、その珍妙なヒット商品のおかげで、おかしなものへと姿を変えてしまう。

 ストーリー以上に印象に残るのが、やりすぎではないかと思えるくらいに誇張された登場人物たち。大金をマネーロンダリングするという込み入った過程でさえも、得体の知れない怪人物の登場によってドタバタと化してしまう。

 くどいくらいのスラップスティック・コメディである。あやしい毒気にあてられないようご注意を。

(古山裕樹)

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