第1回『このミス』大賞 1次通過作品
『四日間の奇蹟』 浅倉卓弥
1次選考として私が読んだ中では、もっとも端正な印象を受けたのがこの作品だ。
語り手は、ある事件に遭遇して指を失い、ピアニストの道を閉ざされた青年。彼は、その事件で両親を亡くした少女の保護者の役割をつとめることになる。少女には特殊な才能があった。一度聴いただけの曲を、ピアノで完璧に再現できるのだ。一方で、彼女は脳に障害を負っていた。十五歳になった今も、その言動は幼児のそれと変わらないのだ。二人は依頼に応じて各地を巡り、少女のピアノを人々に聴かせる日々を過ごしていた。物語は、二人が訪れた山奥の療養所を舞台に繰り広げられる。
さて、これはいわゆる「ミステリー」には分類しづらい作品だ。閉ざされた空間が舞台ではあるが、お約束の連続殺人など起こりはしない。暗い情念に突き動かされる犯罪者も出てこない。主人公が手に汗握る大冒険に飛び込むわけでもない。が、時としてミステリーとはまったく無縁の作品にも注目してきた『このミス』の名を冠する賞には、ある意味で似つかわしい作品と言えるだろう。
『奇蹟』の文字、そして障害を負っているという少女の設定に、なにやら安手の感動垂れ流しを予感する人もあるかもしれない。が、これはそういう安易な「癒し」を提供するたぐいの作品ではない。夢を絶たれた語り手の喪失感、あるいは療養所を切り盛りする女性の抑えられた思いには、安易という言葉を寄せ付けない苦さが漂っている。
物語の中心にあるのは、ひとつの不思議なできごとだ。そのできごとの周辺で、人々のもうひとつの顔が浮かび上がる。そんな物語を支えるのが、ていねいに張り巡らされた伏線と、緻密な人物描写だ。
ピアノの調べのほかにも、何かが聞こえてきそうな小説である。
(古山裕樹)















