第1回『このミス』大賞 1次通過作品
『羊たちの眠れる森』 山崎隆司
「美と悪と愛の黙示録」というキャッチコピーは、皆川博子『死の泉』の元版に付されたものだが、これはそのまま、本作「羊たちの眠れる森」にも当てはまる。幻想ミステリの第一人者であり、その独特な美意識から編み出される耽美的な世界が、ファンを魅了してやまない彼女の代表作を持ち出して、新人の応募原稿を評するのは、いくらなんでも大盤振る舞いが過ぎるのでは、という声もあろう。けれども、自信を持って断言する。この作品は、その精神――即ち、死と再生を、性と愛を、淫靡かつ崇高に描くという点において、かの傑作に十分比肩しうると。
近親相姦の関係にあった姉と、ストリッパーをしていた大富豪の娘。愛した女性二人に先立たれた天涯孤独のカメラマンは、死んだ娘の出世の秘密を探るべく、過去へと遡行する。彼の一人称で進む妖しくも美しく淫靡な物語は、自らのルーツを求めて子宮へと遡る旅にも似ている。神の領域に挑んだ一族は、滅び行く運命にあったのか。
「ねむり姫」と「赤ずきん」という”本当は残酷な童話”をベースに、「少女は無知であり無垢であると同時に、猥褻であり官能なのだ」というテーゼをモチーフにして、エロスとタナトスという糸で紡ぎ出された幻想感漂うミステリ。そのインモラルな設定と、全編に漂い、皮膚にまとわりつくような退廃したエロスの香りに、生理的嫌悪感をもよおす読者もいるだろう。だが、型通りの「傾向と対策ミステリ」が新人賞を獲り、新本格とノワールばかりが氾濫する現在の国産ミステリ界にとって、この「毒」こそが貴重なのだ。何とも言えない余韻を残す、この「毒酒」を是非とも味わってみて欲しい。
(膳所善造)















